【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/チャド・スミス

5月7日発売のロッキング・オン最新号では、「究極のギタリスト」を特集します。そこでギタリスト特集に先駆け、昨年の9月号に掲載したロッキング・オンが選ぶ「究極のロック・ドラマー」を43日にわたり、毎日1人ずつご紹介します。

「究極のロック・ドラマー」に選ばれたアーティストはこちら。

チャド・スミス(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)

【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/チャド・スミス

ご存知レッド・ホット・チリ・ペッパーズの不動のドラマーとして、もう30年以上にもわたってプレイし続けているチャド・スミス。脱退したオリジナル・メンバーのジャック・アイアンズに代わって1989年にレッチリに参加した。アンソニー・キーディスによれば「大阪でソバの屋台をやっていたが、味がひどいので転職を勧めた」ということだが、実際は30人ものオーディションを重ねて巡り会った逸材だった。高校時代からの無二の親友だったヒレル・スロヴァクが急死し、ジャックが脱退してどん底だったレッチリ(アンソニーとフリー)は、彼らよりひとつ上のチャドと、同時に加入した若いジョン・フルシアンテのおかげで再生した。加入第一作の『母乳』(1989年)は一皮剥けたエネルギッシュでパワフルでタイトなアルバムとなり、後の彼らのサウンド・スタイルを確立した初期の最高傑作と言える。
 
チャドのプレイ・スタイルは、抜群の躍動感とグルーヴに溢れたファンキーでエネルギッシュなもの。そして決して叩きすぎず、目立ちすぎず、テクニックばかりを前面に押し出すのではなく、バンド・サウンドと調和して、歌を活かす堅実なプレイをする。自らに求められる役割にきっちり応える誠実さと応用力がある。共にリズム・セクションを担うフリーとの呼吸も合うのだろう。またレッチリ加入以前の豊富なキャリアに加え、レッチリ加入後もスタジオ・ミュージシャンとして数多くのアーティストのバックアップを務めていることもあって、さまざまな音楽スタイルや多彩なリズム・アレンジに対応できる柔軟性を持っているのも強みだ。『カリフォルニケイション』や『バイ・ザ・ウェイ』以降、ジョン・フルシアンテが主導権をとるようになってバンドの音楽性が大きく変わっていったのも、チャドが縁の下の力持ちとしてバンドの土台を臨機応変に支え続けてきたからだろう。

チャドはレッチリのほか、サミー・ヘイガーやジョー・サトリアーニとのバンド、チキンフットでもプレイ、また自らのリーダー・バンドであるチャド・スミスズ・ボンバスティック・ミートバッツでも活動している。元ディープ・パープルのグレン・ヒューズを始め、ジョン・フォガティジョニー・キャッシュ、ディキシー・チックス、フィッシュボーンオジー・オズボーンポスト・マローンジェイク・バグからチャーリーXCXデュア・リパ、はてはB’zまで、実に幅広いアーティストのアルバムに参加、その多彩な音楽性のすべてがチャドのプレイ・スタイルを形成しているのだ。
 
そんなチャドの代表作と言えば、やはりレッチリ、それも『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』(1991年)ではないか。彼らにとって初の全米チャート・トップ3アルバムとなった大ヒット作品だが、メンバーが己の肉体のみを武器に丁々発止でやりとりするような、そそり立つ筋肉が軋み音をあげながらぶつかり合うような、そんな高密度のファンク/パンク/ラップは、衣装を脱ぎ捨て、贅肉を一切削ぎ落としたスカスカの真っ裸の音ゆえ、各々のメンバーの力量や、その生々しいやりとり、汗が飛び散るようなリアルなバンド・サウンド生成の現場を目撃しているような臨場感と緊張感がすさまじい。後年の彼らほどの楽曲のバリエーションはなく、アナログ2枚組という長さもあって、個々の楽曲にはややバラツキもあるが、アンサンブルの密度と演奏の充実度がそれを補って余りある。チャドのドラムは簡潔にして堅実、ソリッドでタイト。バンドのグルーヴを熱くもり立てる推進力があり、フリーとの呼吸も抜群、かつアンソニーというフロントマンをしっかり引き立てる見事なバックアップぶりだ。ロックの器楽的アプローチという点で本アルバムは歴史に残る傑作であり、それは間違いなくリズムの柱となるチャドのドラム・プレイに依るところが大きい。
 
チャドはその開けっぴろげで明るいノリのいい性格でもバンドに貢献していて、気難しくエキセントリックなアンソニー、真面目で悩みがちなフリー、内向的なジョンなど一癖も二癖もあるメンバーをうまくつなぎ止めるかすがいのような働きも果たしているようだ。ドラマーはバンドの中でももっとも社交的で陽気、というのは数多くのバンドを取材した私の経験則からの認識だが、たぶんチャドもそうなのだろう。フリーやジョンの、それぞれのソロ・アルバムに乞われて参加しているのも、チャドの腕の確かさとともに人望のほどを示している。

チャドも現在58歳。同年代のアンソニーやフリーと共に、そのプレイにも枯れた味わいが出てきた。だがブルースやソウルの世界に行けばまだハナタレ小僧。ミュージシャンとしての成熟はこれからだ。(小野島大)



ロッキング・オンが選ぶ「究極のロック・ギタリスト」特集掲載号は、5月7日発売です。ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。


【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/チャド・スミス - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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