冒頭のボイスドラマの流れから、1曲目が“地獄でなぜ悪い”だとわかった瞬間の、「まさか」という驚きと嬉しさが入り混じり、救われたような感覚を鮮明に覚えている。この曲が本当に聴きたかった。そう願っていた観客も多かったに違いない。“地獄でなぜ悪い”は、紛れもなく星野源の歌。それを理解している人ばかりが、6月1日、さいたまスーパーアリーナに集まっている。6年ぶりの全国ツアーに訪れたのだという実感が湧き上がってくる。
開演前は、6年ぶりのツアーに少々身構えている自分がいた。というのも、本ツアーは最新アルバム『Gen』を引っ提げたものでもある。周知の通り本作はDAWによって作られた楽曲で構成され、これまでのアルバムとは一線を画す。また、『Gen』にまつわるインタビューでは、音楽に意味を持たせることもしないし、人生に希望も持っていないと語られていた。だから、どんなテンションのライブになるのかうまくイメージができなかった。だけど、この公演を通して感じたのは、星野源は6年経っても「星野源」のままだということだった。変化しているように見えるけれど、何かを捨てたわけではない。まだ知らない音楽や価値観を追い求め、新しい自分を獲得し、積み重ねてきただけ。これまでのすべてが、今の星野源をつくっている。そのことをパフォーマンスの隅々から実感した。
1曲目の“地獄でなぜ悪い”を聴いているときも、この曲を作った頃から星野源はこの世界が地獄だと歌っていたではないかと、点が線になった。くも膜下出血で倒れた闘病中に紡がれた歌詞ではあるが、お茶の間に星野源の音楽が浸透してからも、「世の中ってクソじゃないですか」とラジオで大笑いしていたことが記憶に残っている。誰から見ても成功者だと思える人ですら生きづらい世の中。そんな世界、自分も苦しくて当然。だからこそ、ひとりではないと実感できる。これまでも、そうやって私たちは星野源の音楽に励まされてきた。(以下、本誌記事に続く)
文=有本早季 撮影=田中聖太郎、藤井拓
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年10月号より抜粋)
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