「ひとりカンタビレ」とは

「ひとりカンタビレ」とは

アルバムというのは、普通、音があがるのは、遅くても
リリースの2ヶ月くらい前である。
で、そこから、プロモーションとかパブリシティとかいろいろやった上で、
発売するわけだけど、そのタイムラグが、たるい。
もっとこう、作った次の日くらいにぱっと出したい。
で、それがどう受け取られるのか、リアクションが知りたい。
それが本来、健康的な作品の届け方なんじゃないかと思う。

というようなことを言うミュージシャンは、多い。
というか、ある程度キャリアを経ると、必ず一度は
そういうことを感じ始めたり、言葉にしたりする、とすら言ってもいい。
僕も過去、いろんなミュージシャンから、何度もそういう話をきいたことがある。

とはいえ、メジャーでやっていると、システム上、なかなかそういうわけには
いかないんだけど、それが壊れるんじゃないか、と一瞬思ったのが、
「配信」というものが一般的になり始めた頃だった。
しかし、現状、あんまり変わっていない。

理由はいろいろ考えられる。
やはり、メジャーと契約していると、まだ、録ってすぐ配信と
いうわけにはいかなくて、「配信をする時はこういう段取りを踏んで」
みたいなルールに従わないといけなかったりするんだろうし。

あと、インディーとか個人でやってる人なら、作ってすぐに配信できるだろうけど、
その場合、「配信したからって誰も聴かない」っていう現実がある。
いや、みんなが聴いてくれる人もいますが、その比率があがればあがるほど、
ある種メジャーと同じように、だんだん小回りがきかなくなる。

それから。メジャーもインディーもだけど、「これ、作ってすぐ配信しました」
って言われても、はたして本当にそうなのか、証拠がない、っていうのもありますよね。
「3時間前に完成しました!」と言われても、こっちはそれを確かめる方法、ないもん。
実は1年かけてじっくり作って、1ヶ月前に完成したものかもしれないし。

で。そうです。それらをすべてクリアしているのが、
奥田民生「ひとりカンタビレ」なわけです。

まず、OTはどメジャーである。配信したら聴く人は必ずいるし、
「配信しますよ」ってことを世間にお知らせするツールも持っている。
メジャーならではの手続き云々の部分は、どうやってクリアにしたのかわからないけど、
大変だったことは想像に難くない。メジャー中のメジャー、ソニーグループだし。
でも、そこもクリアにした。スタッフ、えらいと思う。

そして。本当に作ってすぐ出している、ということを証明するのに必要なものは何か。
証人だ。なら、客を証人にすればいい。つまり、客前で作ればいい。
プラス、その模様をストリーミングで生配信すれば、さらに証人は増える。

もちろん、そこまで考えてOTはこのツアーをやった、わけではないと思う。
先に「客前でレコーディング」という企画があって、あとから
「じゃあ配信もしようか」みたいな順番だったのではと思うが、
でも結果的には、そういうことになっている。

超ベテランで、40代なかばのおっさんで、音楽的に最先端か
オールド・スタイルか、というと明らかに後者であるにもかかわらず、
こういう、きわめてラジカルなことをやってしまう。
しかも本人的には、おそらく、「どうだ、新しいだろ」「革命的だろ」
みたいな意識は、特にないまま。

つくづく、すごい人だなあと思います。


写真は、本文とは関係ないけど、昨日撮ったスカパラとのリハの模様。
詳しくはこのブログの3つくらい前の回をご覧ください。

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