自身の弱さや傷にものすごく敏感でありながら、あえてその傷をさらけ出して、無理やり強さを獲得しようとするような。
アンニュイでナイーブな歌心を優しく丁寧に紡ぎながら、部屋の片隅でうずくまる感傷を疾走感のあるロックサウンドが開けた荒野へと引っ張り出す。
TVアニメ『WIND BREAKER』エンデイングテーマであるYoung Keeの最新曲"無敵”が描くのは、自己と他者、過去現在未来、肉体と精神、正義と悪、光と闇……まとわりつくように自分のまわりをぐるぐると巡るそれらの距離を埋めようとする行為がもたらす孤独と救済の叫びだ。
《アンダードッグ リビングデッドそれよりやばい》状態を《無敵》と呼びながら、《胸が痛いよ 壊れるほど》と切実なまでに脆弱。
なのに聴いていると全身をアドレナリンが駆け巡るみたく多幸感が沸き立つのは、ベッドルームミュージックやヒップホップ、洋楽ポップスの色合いを根底に強く滲ませながら、確実に確信と覚悟を持って鳴らすロックの初期衝動をその歌声が無造作に身にまとっているから。
聴き込むと深淵を覗くように自分の心が浮き彫りになっていくこの感じ、超好き。(橋本創)
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痛みに敏感であるからこそ無敵になれる──Young Kee“無敵”が描く孤独と救済の叫び
2024.06.10 18:00