ゲイリー・オールドマンの演じるチャーチルが素晴らしすぎる。今年のオスカーは”ダンケルクの戦い”が制覇か?[トロント映画祭7]
2017.09.19 13:10
ダンケルクの戦いを、ダンケルクにいた兵士の側から描いたクリストファー・ノーランの『ダンケルク』が絶賛され、世界中で大ヒットを記録しているが、その戦いをイギリスにいた側から描いたのが、ゲイリー・オールドマン主演、ジョー・ライト監督の『Darkest Hour』だ。当時のイギリス首相だったウィンストン・チャーチルがダンケルクから、イギリス海軍とフランス軍を救うために、民間のヨット、漁船などを総動員する命令を発動。そのおかげで35万人が救われたという、”ダイナモ作戦”を決断する過程について描かれた作品なのだ。
ゲイリー・オールドマンが演じているのは、ウィスントン・チャーチル。スクリーンに登場したその瞬間から、”ゲイリー・オールドマン”はどこにもいない。ウィンストン・チャーチルしか見えないのだ。ちょうど、ダニエル・デイ=ルイスが演じた『リンカーン』を彷彿とさせた。あの映画も、彼がスクリーンに登場した瞬間から、ダニエル・デイ=ルイスが演じるリンカーンという風には見えなかった思うから。
ゲイリー・オールドマンの場合は、顔を太ってみせるために特殊メイクが使われているので、そのおかげ、という意見も出て来るかもしれなけど、その特殊メイクもあまりによく出来ている。顔のアップになる瞬間に、どこまでが特殊メイクなのか何度もじっくりと観てみたのだけど、どこが特殊メイクなのか全然分からないのだ。その技術の発展にも感動した。覚えてます?レオナルド・ディカプリオが演じた『J・エドガー』の特殊メイクが酷かったこと。それから6年、もの凄い進化だ。
ゲイリー・オールドマンの演じるチャーチルは、彼の内面から出て来るチャーミングと言いたくなるような人柄が最高。ゲイリー・オールドマンのような俳優は、演技力があるのは誰もが分かっていることだけど、何年かに一度、こうやってその演技力が本当に発揮できる作品に巡り合う。それを目撃できるのは観客にとっては最高の贈り物でしかない、というような作品だ。
また『リンカーン』の時、監督のスピルバーグは、オバマ政権へのメッセージを投げかけていたと言っていたけど、この作品も、こんな風に平民について考えてくれた首相がいたのだと思うと、今の政治家に訴えかけることがあまりに大きい。そんな彼のキャラクターを象徴するものすごくマジカルなシーンがあって、それが心から離れない。
今年はクリストファー・ノーランの『ダンケルク』も強力なオスカー候補になっているが、この作品でゲイリー・オールドマンがノミネートされるのは間違いないと思う。”ダンケルクの戦い”が今年のオスカーを制覇するのか?
予告編はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=eFFj2gS9UWs
ちなみに、少し話題は逸れるが、名優が素晴らしい脚本に巡った、という点で言うと、シャイア・ラブーフが『Borg/McEnroe』で演じたジョン・マッケンローの演技も素晴らしかった。彼は俳優として天才的な才能があると思わざるを得ない演技力だった。その後の記者会見で、どうしてマッケンローをそのように演じたのか説明していたのだが、演技を言語化するという非常に難しいこと、俳優はやりたがらないことを、ものすごい洞察力、観察力、分析力、客観性ともに語っていて、天性の才能だけなく、頭の良さも分かって感動した。行動に問題がある時があって、プロデューサーなどは彼を雇うのを恐れるのかもしれないけど、多くの俳優が努力しても辿り着けない位置にこの人は最初から立っている。どうか彼にとって挑戦になるような作品に巡り会って欲しいと思った。『Borg/McEnroe』も決して悪い作品ではないのだけど。ちなみに、この映画のテニスの試合のシーンは特筆すべき迫力の映像だった。
予告編はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=JD4Eui3rmBw
天才的な俳優が優れた脚本に巡り会うこと、について考えさせた2本だった。