オスカー・ノミネーション発表。女性監督、黒人プロデューサー、マイノリティ俳優、Netflixなどが刻んだ13の新記録。ダイバーシティとストリーミングが目立つ歴史的なノミネーションに

オスカー・ノミネーション発表。女性監督、黒人プロデューサー、マイノリティ俳優、Netflixなどが刻んだ13の新記録。ダイバーシティとストリーミングが目立つ歴史的なノミネーションに - 『ノマドランド』NYFF『ノマドランド』NYFF

アメリカでは、グラミー賞授賞式の翌朝、アカデミー賞のノミネーションが発表された。

全ノミネーションは以下の通り。
https://www.oscars.org/oscars/ceremonies/2021

結果、今年はダイバーシティとストリーミングによって、13の新しい歴史が刻まれた年となった。

1. 女性監督が2人ノミネートされたのは史上初。

2. 白人以外かつアジア人の女性監督がノミネートされたのは史上初。

監督賞のノミネートは以下の通りだ。

クロエ・ジャオ『ノマドランド』
エメラルド・フェネル『プロミシング・ヤング・ウーマン』
リー・アイザック・チョン『ミナリ』
トマス・ヴィンターベア『Another Round』
デビッド・フィンチャー『Mank/マンク』

これまで92回開催されたアカデミー賞で、女性監督はたった5人しかノミネートされていない。

今年は、1年でなんと2人。しかも、これまでの5人は全員白人だったが、クロエ・ジャオは中国系なので、白人以外でノミネートされた史上初の女性監督となった。しかもクロエは、現時点ではオスカーを受賞する可能性大だ。取れば白人以外の女性監督として初の受賞となる。

また、『ミナリ』の監督も韓国系アメリカ人なので、監督部門は、これまで長い間独占してきた白人男性がマイノリティとなる比率になった。

3. ヴィオラ・デイヴィスが黒人女優として最多となる4回目のノミネートをされる。

4. ヴィオラ・デイヴィスが主演女優賞に2回ノミネートされた史上初の黒人女優に。


主演女優賞のノミネートは以下の通り。
ヴィオラ・デイヴィス『マ・レイニーのブラックボトム』
アンドラ・デイ『ジ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』
ヴァネッサ・カービー『私というパズル』
フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』
キャリー・マリガン『プロミシング・ヤング・ウーマン』

ヴィオラ・デイヴィスはこれまで計3回ノミネート。オクタビア・スペンサーと黒人女優として史上最多のノミネーション数で並んでいたが、今回4回目のノミネートを果たし史上最多を記録。

ちなみに、黒人女優で2回以上ノミネートされているのは、2人の他には、ウーピー・ゴールドバーグしかいない。

また主演女優賞を取った黒人女優はこれまでたった1人しかいない。2001年のハル・ベリーで『チョコレート』の主演で1回きりだ。

今年は、主演女優賞で、ヴィオラ・デイヴィスとアンドラ・デイの黒人女優が2人がノミネートされている。これは、1973年にダイアナ・ロスと、シシリー・タイソンがノミネートされて以来の快挙。この時は、ライザ・ミネリが『キャバレー』で受賞した。


5. 韓国人俳優がアカデミー賞にノミネートされるのは史上初。

助演女優賞で、『ミナリ』に出演した韓国人のユン・ヨジュンがノミネートされた。これは韓国人俳優としては史上初の快挙となる。これまでは、昨年の『パラサイト 半地下の家族』のように、韓国人が監督、出演する作品がオスカーを取ったことはあるが、韓国人の俳優がノミネートされたのはこれが初だ。

6. 主演男優賞で、アジア系アメリカ人がノミネートされたのは、史上初。

7. 主演男優賞で、イスラム教徒がノミネートされたのは、史上初。

8. 主演男優賞で、アジア系俳優が2人ノミネートされたのは、史上初。

主演男優賞のノミネートは以下の通り。
リズ・アーメッド『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』
チャドウィック・ボーズマン『マ・レイニーのブラックボトム』
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』
ゲイリー・オールドマン『Mank/マンク』
スティーヴン・ユァン『ミナリ』

リズ・アーメッドは、イスラム教徒で、パキスタン系イギリス人で、スティーヴン・ユァンは、韓国系アメリカ人だ。
パキスタン系と韓国系というアジア系俳優が主演男優賞で2人ノミネートされたのは史上初となる。



9. 全俳優部門で、白人以外の俳優が計9人ノミネートされたのは史上最高。

リズ・アーメッド『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』
チャドウィック・ボーズマン『マ・レイニーのブラックボトム』
スティーヴン・ユァン『ミナリ』
ダニエル・カルーヤ『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』
ラキース・スタンフィールド『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』
レスリー・オドム・Jr .『あの夜、マイアミで』
ヴィオラ・デイヴィス『マ・レイニーのブラックボトム』
アンドラ・デイ『ジ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』
ユン・ヨジョン『ミナリ』

これまでは、2017年に7人の白人以外の俳優がノミネートされたのが最高記録だった。

10. アンソニー・ホプキンスは主演男優賞にノミネートされた史上最年長。


アンソニー・ホプキンスは現在83歳で、主演男優賞にノミネートされた史上最年長となった。これまでは、『ストレイト・ストーリー』のリチャード・ファーンズワースの79歳だった。

11. 黒人プロデューサーのみの製作による作品が作品賞にノミネートされたのは、史上初。


『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』は、シャカ・キング監督で、彼を含めた『ブラックパンサー』の監督ライアン・クーグラーと、チャールズ・D・キングの3人がプロデューサーを務めた作品だ。『ジューダス〜』は、黒人プロデューサーのみで製作された作品として、初めて作品賞にノミネートされた。

作品賞にノミネートされたのは以下の通り。
『ノマドランド』(3月26日日本公開)

https://twitter.com/SearchlightJPN/status/1371662779166302210

『ミナリ』(3月19日日本公開)


『ファーザー』(5月14日公開)


『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』(アマゾン配信中)

https://youtu.be/VFOrGkAvjAE

『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』(公開未定)

https://youtu.be/sSjtGqRXQ9Y

『プロミシング・ヤング・ウーマン』(今夏公開予定)

https://youtu.be/7i5kiFDunk8

『Mank/マンク』(Netflix配信中)

https://youtu.be/Ogv1bq9cgVc

『シカゴ7裁判』(Netflix配信中)

https://youtu.be/FDCjq44keS0

12. Netflixが、35ノミネート獲得で、今年のスタジオ別ノミネーション数1位。Netflixとしても過去最高。

13. Amazonが、12ノミネート獲得で、今年のスタジオ別ノミネーション数2位。Amazonとしては過去最高。

スタジオ別ノミネーション数は以下の通り。
1. Netflix 35
2. Amazon 12
3. Walt Disney 、Warner Bros. 8
4. Focus Features 7
5. A24、Searchlight、Sony Pictures Classics 6
6. Universal 4
7. Samuel Goldwyn 3
8. Apple、Magnolia、New York Times、Paramount/MTV、Roadside Attractions 2
9. Gravitas、Hulu、Super LTD、Well Go USA 1

Netflixは、去年24ノミネートされ、ストリーミングサイトとして過去最高のノミネーションを記録したが、今年はそれを大幅に上回る35ノミネートされた。

ノミネートされたNetflixの作品は、『Mank/マンク』(10)、『シカゴ7裁判』(6)、『マ・レイニーのブラックボトム』(5)、『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2)、以下各1『ハンディキャップ・キャンプ:障がい者運動の夜明け』、『ザ・ファイブ・ブラッズ』、『ユーロビジョン歌合戦 〜ファイア・サーガ物語〜』、『これからの人生』、『ミッドナイト・スカイ』、『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』、『フェイフェイと月の冒険』、『私というパズル』、『スリープオーバー 〜夜の大冒険〜』、『ザ・ホワイトタイガー』、『A Love Song for Latasha』、『If Anything Happens I Love You』となる。

このノミネーション数は、Deadlineによると、数え方にもよるのだそうだが、歴代2位か、または3位。

過去最高のノミネーション数は、1940年のUnited Artistsで45ノミネーション。また、2003年のオスカーでは、ミラマックスがパラマウントと共同プロデュースで40ノミネートされたことがあった。パラマウントの共同プロデュースを外すと、ミラマックス製作は31となる。Netflixが3位だったとしても驚異的だ。

Amazonは、これまで2017年に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で7ノミネートされたが、今年は12ノミネートで過去最高だ。『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』、『あの夜、マイアミで』、『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』、『Time』でノミネートされている。

ここ数年、劇場公開かストリーミングか? ストリーミングの映画はオスカーにノミネートされる資格があるのか?などというせめぎ合いを繰り返してきたが、今年はコロナ禍だったため、否応なくこういう結果となった。これが今後どのような影響を与えるのか見守りたい。個人的には映画は絶対に劇場で観たいと思っている。

また、ご存知のようにオスカーは、2015年にノミネートした俳優部門全20人が白人だったために、「#白すぎるオスカー」(#OscarSoWhite)というムーブメントが起きた。さらに、これまで92回開催されたオスカーで女性監督のノミネーションがたった5人という極端な少なさも度々批判されてきた。これを受けてここ数年、トロント映画祭などをはじめとして上映する女性監督の作品を全体の半分に増やそうとしたり、マイノリティが主人公の作品を増やそうとする明確な動きがあった。今年のアカデミー賞のノミネーションにはそういう意識が表れたものになったと思う。

さらに、最近発表されたゴールデン・グローブ賞においては、まずそれを決めているハリウッド外国人記者協会に実は黒人の会員が1人もいないことが批判された。また、ノミネーションにおいても、今年はとりわけ黒人が主人公のTV番組に画期的な作品が多かったのにも関わらず、TVの女優部門で白人のみをノミネートしたことが大批判された。オスカーも、そういう社会的なプレッシャーを感じていたはずだ。

今年のオスカーのノミネーションは、激動の年を反映したものになったと思う。

アカデミー賞の発表は、日本時間では4月26日となる。放送は以下の通り。
https://www.wowow.co.jp/extra/academy/



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