ザ・ナショナル:春の感涙コンサート・シリーズその1

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春の感涙コンサート・シリーズというのは、私が勝手に付けましたが、ザ・ナショナルのNYライブ・レポート。来日してしまったので、慌ててアップです。


3月にNYで行なわれた超貴重ライブ。たった350人しか入らない会場で、2日間、5月に発売される新作『ウルトラ・ヴァイオレット』のお披露目会が行なわれた。ほとんどの曲をファンはここで初めて聴いたのだ。NYをベースにするインディ・バンドの中でも熱狂的に愛されるザ・ナショナル。チケットは秒速で売り切れた。というか、彼らはとうとうラジオ・シティ(8000人)で単独ライブも行なうのだけど、それも数分で売り切れたのだ。このライブがどれだけ貴重か分かっていただけると思う。それをレーベルの方が確保してくださったのだ。ありがとうございます。


会場のムードはだから異様にテンションが高いのは当然なのだが、何と言うか、誰もが心底好きなだけに、ファンも緊張していたのが面白かった。前作の『ボクサー』で大ブレイクし、軒並年間ベストにも選ばれた後の新作となると、今作で彼らが大きく方向転換しすぎているんじゃないかとか、『アリゲーター』、『ボクサー』を超える作品じゃなかったらどうしようかとか、不安と期待が入り交じるのが痛いほど伝わってきたのだ。


そんな中、1曲目歌い始める前にマットがまず「これは新作の中でも最も明るい曲なんだ。タイトルは”Sorrow"(悲しみ)」と言ったので、会場爆笑。緊迫の糸がすぐにほどけた。大丈夫だ、変わってない、と誰もがそこで確信したのだ。ブレイクのきっかけとなった、『ボクサー』の前のアルバム、『アリゲーター』は、”Mr. November"や、”Abel" と言った、強烈なフックのあるメロディが特徴だったのだが、『ボクサー』がそれをさらに上回ったのは、そのファンが期待するのパンチ・ラインを制約しながらも、”Mr. November"を超える曲を作ってみせたことだ。そのおかげで、『ボクサー』は、長年に渡って染み渡ってくるそんなアルバムになった。私もその年一番ヘヴィー・ローテーションしたアルバムだった。さらにその制約は、マットの絶妙な歌詞をより響かせ、また、彼らのミニマルながら高度なアレンジ技術を光らせることになった。


そして最新作は。最初に言ったように、変わっていなかった。しかし圧倒的に良くなっている。”Runaway"のような、『ボクサー』をさらに冷まし、さらにスロウにしたような辛抱強い曲もあったし、”Little Faith"は、彼らの曲に多い、雨が出て来る、ニューヨーカーのアンセムのような曲。これもスロウに始まり、ピアノから、ザ・ナショナルらしい後半溜めたからこそのドラマが展開する感動的なナンバー。ちなみに、この日も雨だったのだ!オール・ポインツ・ウエストのフェスの時なんか、彼らが出演した時の雨が酷すぎて、私のカメラが壊れたくらいだった(笑)。”Anyone's Ghost"では、「彼は誰かのゴーストにはなりたくなかったんだ」というマットのさえた歌詞が印象的。というか、歌詞はすべて素晴らしそうだった。早くアルバムがじっくりと聴きたい!!!!全体的なトーンとしては、よりダークにはなっているものの、前作で封じた”ポップ”さを取り戻した曲もあって、例えばこの日最後に演奏された”Terrible Love"や、”Bloodbuzz Ohio"など。この日は、固定のメンバーの他に、ホーン・セクションふたりと追加のパーカッションも入れての所狭しのライブだったのだが、例えば、”Afraid of Everything"などのホーン、ヴァイオリン・アレンジなども見事だった。ドラマーのセンスの良さも相変わらずだったが。


マットは咳をしながら、「実はタバコを本当に辞めたから長年肺にたまっていたニコチンが今外に吐き出されているんだ」と言っては白ワインを飲んでみたり、”Terrible Love"で奥さんへの愛をかなり不器用に語ったり、しかし歌っている最中に奥さんの観ている観客席の一番後ろまで行ってみたり、さらに失敗することの恐れ、を話したりした。が、一番印象的だったのは、「昨日(初日。私が観たのは2日目)は、ナーバスで仕方なかったけど、今日のバックステージは、自信に満ち溢れていた」と言ったこと。恐らくこのアルバムがこれまでの作品より壮大になっているのは、その自信のせいだったかもしれない。


ライブが終わった後の観客はほっと一息しながら幸せを噛み締めているようだった。みんな口々に興奮状態で、「心配してたけど、本当にいいアルバムになりそうで良かった!!!!」とそれがまるで自分達の勝利でもあるかのように喜んでいたのが感動的でもあった。待望のアルバムは5月発売。そして、次は、ラジオ・シティ単独ライブである!!!あ、この日はもちろん”Abel"も”Mr. November"も、”Fake Empire"もやってくれた!しかし前日なんと歌詞を忘れた(笑)という”Start a War"をやってくれなかったのはちょっと残念ではあったが、ラジオ・シティで絶対に聴けるはずだ。
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