クリープハイプは変わり続ける(ホールツアー、NHKホールを観た)

クリープハイプは変わり続ける(ホールツアー、NHKホールを観た)

「変わり続けながら、一緒にいましょう」――尾崎世界観はステージからそう語りかけた。

「八枚目でやっと!九枚目でもっと!」と名付けられた、クリープハイプ初の全国ホールツアー。このタイトルは、クリープハイプがこれまでにリリースしてきたオリジナル作品の数だ(と思う。本人に聞いたわけではないので)。2010年の実質的なデビュー・アルバム『踊り場から愛を込めて』から数えて、今年リリースされた移籍後初のシングル『寝癖』が8枚目、そして『エロ/二十九、三十』で9枚目。『寝癖』をリリースして行われた「やっと」の武道館公演、それを過去にして「もっと」先に向かうための『エロ/二十九、三十』。いいツアータイトルだ。そう、このツアーはクリープハイプが「変わる」ためのツアーだった。そのファイナル、NHKホールでクリープハイプが見せたのは、変わり続けながら目の前の「あなた」と向き合い続けるよという、ひとつの決心だったのだと思う。

「変わり続けながら、一緒にいましょう」。この尾崎の言葉を、僕はものすごく感動しながら聞いていた。クリープハイプ、そして尾崎世界観は、とにかく前に進みたい、大きくなりたいと願うのと同時に、それを受け取る相手に対しては、常に「変わってほしくない」「いなくなってほしくない」「今と同じように愛し続けてほしい」と求め続けてきた。でもそれが叶わないという哀しみや切なさを、歌にし続けてきた。

“左耳”
“HE IS MINE”
“風に吹かれて”
“バブル、弾ける”
“ウワノソラ”
“イノチミジカシコイセヨオトメ”
“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”
“ラブホテル”
“社会の窓”

どの曲も、「変わってしまった」ということか、「変わりたくない」ということか、「変わってほしくない」ということか、「変われない」ということか、のどれかを歌っているように僕には思える。数少ない例外といえるのは“オレンジ”と“憂、燦々”、それから“さっきはごめんね、ありがとう”ぐらいで、“オレンジ”のサビは意図的にリアリティを排除しているし、“憂、燦々”はタイアップという舞台装置があったし、“さっきはごめんね、ありがとう”は親しい個人に向けて書かれた尾崎の私信だ。

今日、1曲目に歌われた“寝癖”もそういう歌だった。変わっていく、終わっていくことを感じ取りながら、それでも「ここにいたい」と願う歌。しかし、“エロ”は違う。

《今日は明日昨日になる》

というフレーズを、尾崎は哀しみや切なさではなく、何かしらポジティヴな意思として歌っている。“二十九、三十”もそうだ。

《前に進め 前に進め 不規則な生活リズムで》

という歌詞は、変わっていくことを望み、変わっていくことを受け入れ、それでもちゃんとわかってもらえるという自信を感じさせる。つまり、クリープハイプはそういうバンドになったということだ。初のホールツアー、彼らはとにかく堂々としていた。音も歌も、輪郭がくっきりとして、心に届く深度が違っていた。

去年の6月、中野サンプラザで観たときの彼らとは何もかもが違っていて、あのときはホールってクリープハイプにとってはやりづらいところもあるのかななんて思ったりもしたけど、今となってはそんなこと少しも感じなかった。変わっていく切なさや哀しさは消えないけれど、クリープハイプはその切なさや哀しさすらも包み込む、大きな歌を歌える。すばらしいライヴだった。
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