忘れらんねえよの柴田は、人の話しかしない。
以前レポートさせてもらったキュウソネコカミのツアーゲストが忘れらんねえよだった時も思ったのだが、彼は自分たちの話なんてほとんどしない。MCは人の話ばっかり、しかも、相手を褒めることしかしない。よくそんなところにも気付くなってくらいに些細なエピソードを持ってくる。
ツアーフラッグを見てもそうだ。主催の「忘れらんねえよ」の文字よりも、サインペンで書き込まれたツレである他のバンドの名前の方が目立っていたし、会場BGMはツアーで対バンしたバンドの曲がずっと流れていた。そしてこの日も、対バンの夜の本気ダンスのことをひたすら褒め称えた。
そんなバンドが、人から愛されない訳がない。
さらに曲もライヴも良いのだから、今日のチケットが即完したことは全く不思議じゃない。それでも彼らは「ここにいるあんたのおかげだ」と言う。謙遜やその場凌ぎなんかではなく、心から言う。それでもうグッときて、思わず泣けてしまった。
「忘れらんねえよの音楽を聴くと、何かに夢中になっていたあの頃のキラキラした気持ちを思い出すことができる」ーーMC中に語られたファンからの言葉がまさにそうだ。私は今日のライヴを観て、日々失いかけていた大切な感情を思い出せた。けれど例えばここで「忘れらんねえよ、ありがとう!」なんて言うと、きっと柴田に「俺の方がありがとうだよ!」と返されるんだろうなとも思う。
ドラム・酒田の脱退を経ても決して止まらなかった忘れらんねえよの第2章幕開けのツアー。終わりと始まりを同時に迎えた彼らにとって、出会いと別れのこの季節はぴったりだった。柴田が言った「今、バンドがいい空気なのよ」という言葉が心から嬉しかった。
後日、改めてレポートします。(峯岸利恵)