プリンスやエリカ・バドゥが注目する新たな才能キング。80年代の恍惚感が蘇る
2016.04.06 11:45
5月に来日公演が早くも決定したキング。レコーディング・デビューを果たした5年前からザ・ルーツ、エリカ・バドゥ、プリンス、ジャム・アンド・ルイスらから絶賛されてきたが、3月にようやくファースト『ウィー・アー・キング』をリリース。その最大の魅力は、このとてつもないタイムレス感で、70年代から80年代にかけてのR&Bやソウルの名曲の数々が蘇ってくるようなサウンドでありながら、実はどれひとつとしてこれまでまったく聴いたことのない新しい曲と歌になっているところがとろけるように心地よいのだ。ただ、それ以上に素晴らしいのは、どこかとても懐かしくも感じるこのサウンドと世界観が決してある種のスタイルの復興を目指すようなレトロとして作り上げられているわけではなくて、とても自由な創作としてこういう音が生み出されているということで、それがこのアルバムと収録曲のなんともいえない新しさにもなっているということなのだ。
パリス・ストラザーとアンバー・ストラザーという双子の姉妹とアニタ・ビアスのスリー・ピースとして活動しているこのユニットにとって最も幸いしているのは、やりたいことと好きなことしかやらないということをどこまでも徹底化していることだ。だからこそ、"The Story"、"Supernatural"、"Hey"を収録していたファーストEPを2011年にリリースして、フル・アルバムを完成させるまでに5年もかかってしまっているのだ。これだけ時間をかけたことで、まず楽曲として収録曲はどれも完璧な出来になっていて、一度聴いたら一発でやられるようなキャッチーさはないかもしれないけれども、聴いていると聴いている分だけ気持ちよくなってくる完成度を楽曲として誇っているのだ。しかも、プロデュースとサウンド面はすべてパリスが一手に仕切っていて、ほぼすべての音をパリスが作っているといってもいい。このことと、自分たちのイメージするサウンドだけを求めることによって、まったく時流という配慮をしていないために逆にタイムレスで、ある種の新しささえ獲得しているといってもいいのだ。ある意味、80年代末以降のR&Bというのは強迫的なまでに時流のサウンドにこだわってきたといってもいい。それは常にヒップホップやダンス・シーンの最前線を意識していないと時代遅れな音として思われてしまうという、後塵を拝するような状況にヒップホップの台頭以降置かれてきたからだ。しかし、たとえば、ディアンジェロの『ブラック・メサイア』がなぜ画期的だったのかというと、今自分に弾ける渾身のファンクを、ほかのサウンドに頼ることなく徹底的に突き詰めることで最新型の音として鳴らしてしまうという試みを成し遂げたからで、そうすることでこうした時代性の問題を乗り越えることに成功したからなのだ。今回の文句のつけようのないキングのサウンドもまた似たような新しさを帯びているところが画期的だし、そうかといって、たとえば"Mister Chameleon"で聴かせるシンセ・ベースによるベースラインが最初はユーリズミックス的なテクノ感を漂わせつつ、後半はベースの名手であるエイブラハム・ラボリエルやアンソニー・ジャクソンらを思わせる絶妙過ぎるフレージングが飛び出してくるところなどにパリスの空恐ろしい意匠にしびれさせられるのだ。
ある意味で、これはとても幸福で、奇跡的なアルバムであるのかもしれないが、しかし、今現在こういう新しい才能が登場していることを示唆するものとしてもとても注目するべき作品だと思うし、この恍惚感にはどうしても感銘を受けてしまう。(高見展)