ビョークの音楽と最先端のテクノロジーが合体し、新たな音楽体験を提示するVR(ヴァーチャル・リアリティ)の展示プロジェクト「Bjork Digital 音楽のVR・18日間の実験」が6月29日から7月18日まで、東京・日本科学未来館で催される。アルバム『ヴァルニキュラ』収録曲を、世界のさまざまな映像作家たちとのコラボでVR映像化した作品集の展示会だ。そのオープニング・レセプションに行ってきた。
目玉はビョークが日本の技術チームや映像作家たちと組み、『ヴァルニキュラ』収録の楽曲“Quicksand”を歌い、それを360度VR映像によるリアルタイム・ストリーミングで中継するという試みだ。ビョークは3Dプリンターで60時間をかけて製作されたという異様なヘッドピース(マスク)をつけ、カメラが包囲する中、白い衣装で歌い踊るのだが、現場で生で見ている限りでは普通のライブ・パフォーマンスと変わらない。これは360度カメラが捉えたビョークの映像に、ストリーミング配信のさいに、さまざまなエフェクトや予め用意された映像による演出をリアルタイムで加えることで、斬新な3D映像として観せるというものだ。つまりこの日会場に居合わせた観客が目撃したのは、そのストリーミングされたVR映像のメイキング・シーンだったというわけだ。パフォーマンス終了後にほんの短時間アーカイヴ公開されたストリーミング映像での、美しく変容するビョークの姿は、確かにリアルタイム配信されたとは思えない斬新で大胆な映像処理が施されたものだった。そしてその先端テクノロジーの進化の果てには、もしかしたら目の前で歌い踊るアーティストの姿をリアルタイムでVR化してしまう未来さえも想像できてしまう。VRがナマのライブを超えてしまう瞬間が、すぐそこまで来ている。そんな予感さえ感じさせたのだった。なおこの日収録された映像は「Bjork Digital」のためにアーカイヴ化され、今後世界各地でおこなわれる展示会で公開されるという。
<音楽家の役割とは人間の感情や魂を伝えることである。そのための楽器は古いものでも最新のテクノロジーでもいい。最新のテクノロジーが生まれ、人間の感性を伝えるためのノウハウが次第に蓄積していく、その過程がエキサイティングなのだ。テクノロジーが新しい表現を生み、新たな文化を創り、優れたアートを作る。VRも、いつか感情表現のために有力な手段のひとつとなるはずだ。人間らしさの表現や感情の伝達を、いかにデジタルというテクノロジーを使って表現するか、常に模索している。
未来に対する危機感、環境問題などの地球的な危機感は誰もが感じている。でも私は楽観的だ。いつか地球は絶対に元の形に戻るはず。そういう希望は常に持っている。さまざまな最先鋭の英知を結集し、最新のテクノロジーと自然を共存させることで、地球は必ず元の美しさを取り戻すと思う。>
科学技術の進化が必ずしも人類の明るい未来に繋がるわけではない、ということに人々はとうの昔に気づいている。だがビョークは言う。「ハリウッドで作られる未来もの映画の70%は、地球破滅で終わるらしいけど、そんなのはおかしい」と。テクノロジーがいつか必ず人類の幸福に結び付き、明るい未来を作りだすと確信している。テクノロジーが自分の表現を拡張し、自由にしてくれたと知っている。だからこそ自分の表現においても実験や冒険を恐れず、果敢に新しい領域に飛び込んでいける。その強さこそがビョークを支えているのである。
正直、この日のイベントでビョークから受け取った情報量はあまりに膨大すぎた。その情報は「Bjork Digital 音楽のVR・18日間の実験」を体験することで、初めて真に理解できるはずだ。私も会期中に絶対もう一度足を運びたいと思っている。(小野島大)