スピッツ全アルバムレビュー 12th『さざなみCD』【『醒めない』リリース記念】

2016年7月27日(水)に15thアルバム『醒めない』をリリースするスピッツ。
RO69ではリリースを記念して、これまでの全アルバムを振り返るディスクレビュー特集を行います。
『醒めない』リリースまで、1日1作品ずつレビューを掲載します。
本日の作品は2007年発表の12th『さざなみCD』です。


現在の4人が揃い、スピッツとして始動したのが1987年で、そこから20周年にあたるアルバムが『さざなみCD』だ。実写映画版『ハチミツとクローバー』の、それしかねえ、という主題歌シングル“魔法のコトバ”を含む全13曲。ベスト盤2作を挟み、前作『スーベニア』からは2年半というスパンでリリースされた。

今回の全アルバムレビュー企画の依頼を受けるよりも前、6月初旬に公開された高橋智樹さんのコラム(こちら→http://ro69.jp/news/detail/144065)に触発されてから、スピッツのアルバムを片っ端から聴き直してきたのだけれど、リリース当時にこの『さざなみCD』に触れた時の、スピッツ楽曲が得も言われぬ懐の深さを抱かせてくれた感覚が、今回も鮮やかに蘇ってきた。

孤独感が音に乗って無限に想像の世界を押し広げる、ダイナミックなチェンバーロック“僕のギター”のパンチも、口語調のユニークな歌詞がくるくると視界をスクロールさせる“Na・de・Na・de ボーイ”も、情熱的な恋心が熱く吹き上がる“点と点”も、オルゴールのようなキーボードのサウンドスケープの中で男の悲しい背中が透かし見える“P”も。テーマや背景はさまざまだが、雄弁なソングライティングと確かなサウンドで、リスナーを抱擁する。

ベスト盤後に求められた新しいギアがそうさせたのか、何しろこんなふうに、スピッツ作品に対し手放しで身と心を委ねてしまったことはなかった。で、その感覚は以後、今日まで揺らぐことなく続いている。楽曲のバリエーションについても、手探りの挑戦というよりは、余裕を持った表現の振り幅として受け止められるのだ。

個人的には“点と点”と甲乙つけ難いが、豪快なサザンロック風アンサンブルと、情けなくも屈しない歌心が手を取り合った“ネズミの進化”が好きだ。朧げに、20年前の“リンダリンダ”が重なって聴こえる。マッチョな男らしさとか頼もしさとは真逆の歌が多いのだけれど、つくづく、男心をまっすぐに捉えて止まないアルバムである。(小池宏和)


なお、スピッツは2016年7月30日(土)発売『ROCKIN'ON JAPAN 9月号』の表紙に登場します。
お楽しみに!

公開済の作品はこちら
2016年7月22日 11th『スーベニア』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145998
2016年7月21日 10th『三日月ロック』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145999
2016年7月20日 9th『ハヤブサ』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145944
2016年7月19日 8th『フェイクファー』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145859
2016年7月18日 7th『インディゴ地平線』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145808
2016年7月17日 6th『ハチミツ』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145806
2016年7月16日 5th『空の飛び方』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145804
2016年7月15日 4th『Crispy!』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145764
2016年7月14日 3rd『惑星のかけら』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145713
2016年7月13日 2nd『名前をつけてやる』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145667
2016年7月12日 1st『スピッツ』:http://ro69.jp/blog/ro69plus/145597