ザ・ウィークエンド、大ヒットの新作『スターボーイ』で見せる才能の果てしなさとは

ザ・ウィークエンド、大ヒットの新作『スターボーイ』で見せる才能の果てしなさとは

12月23日(金)に新作『スターボーイ』の国内盤がリリースされるザ・ウィークエンドだが、一足早くリリースされたアメリカでは初登場1位、初週セールス20万枚と今年の初週セールス3位の記録となり、週間ストリーミングでもドレイクの『ヴューズ』に次ぐ今年2位の記録を打ち出すヒットとなっている。

それもそのはずで、あらためてウィークエンドのずば抜けた才能をみせつける内容となっているからで、今年のグラミー賞でもR&B部門は実質的にはウィークエンドかディアンジェロかという高い評価を受けたわけだが、そのセカンド『ビューティー・ビハインド・ザ・マッドネス』に勝るとも劣らないとてつもない作品となっている。

もともとウィークエンドはインディ時代に制作し、2011年に3本立て続けにリリースしたミックス・テープが高い評価を受けて13年に『キッスランド』でアルバム・デビューを果たすが、ある意味でソングライターとパフォーマーとしての世界観はこの時点でほぼ出来上がっていたといってもいい。ウィークエンドはパフォーマーや演者としての疎外感と恐怖をこのアルバムでは描いていたが、まだツアーなど経験もしていなかったことからあくまでも虚構として綴っていたところが多いと語っている。しかし、この音と歌詞的世界が以後、より深みと具体性を帯びていくところがすごいところなのだ。つまり、セカンドとなり、世界的な絶賛とセールスを呼んだ『ビューティー・ビハインド・ザ・マッドネス』はまさにこの世界観に肉体性をもたらした作品になっていたわけだが、自身の大ブレイクと経験が伴って、作品世界に実感が備わってくればくるほど、孤独感がより切実になり、しかし、音はよりポップで本格的なR&Bになっていくという、とてつもない進化の仕方をしているのだ。

そして今回の『スターボーイ』は、それをさらに突き詰めた内容になっている。「スターボーイ」というのは、ついにグラミー賞も手にしたウィークエンド自身のことでもあるが、これはあけすけな造語などではなく、00年代に入ってからのカリブ系移民の間でのスラングで、仲間内でも「持ってるやつ」という意味合いの言葉だ。スターダムを手にした自分をこうしたジャマイカ系のスラングで形容するところがウィークエンド独特のバランス感覚なのだ。そして、オープナーの“Starboy”は金も車も女も手に入れたウィークエンドの俺様節になっているのだが、音はどこまでも孤独感と哀しみが響くものとなっていてこの俺様節を逆説的に鳴らしているところがすごいところで、しかも、ここでダフト・パンクを起用し、異常なポップさをほどこしているところに、もうただ唸らされる。

全編あますところなく深い肌触りとポップさとが同居し、さらにスタイル的にもこれまでのように意識的に渾然一体となったものを目指すわけではなく、トラックごとに自由に取り組んでいるのもとても力強いヴァイブを生んでいるように思う。周囲との違和感や疎外感をエレクトロ・ハウスとして歌う“Rockin’”などはその最たるものだし、かねてからマイケル・ジャクソンへのオマージュをところどころで見せてきたが、ほとんどマイケルの生まれ変わりとしかいいようのない超絶パフォーマンスとソングライティングを聴かせる“A Lonely Night”はただすごすぎるとしかいいようがない。しかし、珍しく低音ヴォーカルを聴かせる“Secrets”での、自分も相手も常に秘密を抱えていて、いつも寝言でそれを察しているという危うさを歌う内容と、強烈なハード・エレポップの世界が交錯する世界が一番の聴きどころかもしれない。

いずれにしても、暗さと深さは増しながら、よりハードにポップになっているというウィークエンド。前作からわずか1年でこの内容にはたまげたが、まだまだ勢いは止まらない気がしてならないのだ。(高見展)
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