これが、これこそがビートルズの真実だった ―― ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』徹底レビュー

これが、これこそがビートルズの真実だった ―― ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』徹底レビュー - rockin'on 2022年1月号 中面rockin'on 2022年1月号 中面

文 = 大鷹俊一

それはそれはとんでもないものだった。ザ・ビートルズに関する作品で、こんなに震えるほど感動したのは、いつ以来だろう。

『ザ・ビートルズ: Get Back』、いち早く公開されていた予告映像の美しさに期待値はマックスだったが、現物は予想をはるかに超える素晴らしいものだった。ビートルズのリハーサルやラスト・ライブが観られるといった興味はたっぷり満たされるが、同時にこの「ゲット・バック・セッション」に挑んだ四人の姿勢、言い争いも含めた葛藤など、すべて実際の映像や本人たちの肉声で見せられることによって、とてつもないロード・ムービーを体験しているような気分にもなる。それはビートルズ史に新たに、とびっきり新鮮な1ページが書き加えられた瞬間であった。

真冬の映画撮影スタジオで行われた寒々としたセッション、原点に帰り、レコーディング・テクニックを駆使した作品作りから離れライブ・バンドの姿をテレビの特別番組として見せ、さらにそれを新作としてリリース、と計画されたプロジェクトは、アルバム『レット・イット・ビー』と、マイケル・リンゼイ=ホッグ監督が撮った映画となった。アルバム『レット・イット・ビー』はこの10月にスペシャル・エディションが出たが、映画の方は、全体の暗いトーンなどがメンバーに嫌われたのと複雑な権利関係からパッケージ化されることなくきていた。その裏で進行してたのが『ザ・ビートルズ: Get Back』であった。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』で知られるピーター・ジャクソン監督のもとにビートルズの権利を持つアップル・コアから最初に話があったのは2017年夏という。ジャクソンが手掛けた第一次世界大戦のドキュメンタリー映画『彼らは生きていた』の映像復元に感銘を受けたからで、ジャクソンはアップル・コアの巨大な保管倉庫(マニアにとって究極の宝物殿だ)にあるフィルム・ロールの3、4日分を観てぶっ飛んだという。

彼自身ビートルズ・マニアだから映画『レット・イット・ビー』の暗いイメージがまずあったわけだが、オリジナルのフィルムで繰り広げられてたのは、暗い陰湿なやりとりなんかではなく、曲作りやアレンジにアイデアを出し合ったり、かと思うと仲良くじゃれ合う姿だった。結果、ジャクソンは60時間以上の未公開映像と150時間以上の未発表音源を自由に使い、3年がかりで復元し、まとめ『ザ・ビートルズ:Get Back』を仕上げた。「あれは最低なレコーディングという結果に終わったビートルズの悲惨な解散の記録などではなく、むしろ、彼らにとってこれ以上ないほど熱のこもった曲作りとリハーサルとレコーディングの期間だった。そう私は確信しています」

ディズニープラスにて11月25、26、27日からトータル8時間弱のボリュームで配信公開されているが、最初に強調しておきたいのは、ジャクソン監督のビートルズ・ファンとしての姿勢が、まず素晴らしい点だ。自由に編集することを許されたからこそ、勝手な解釈をするのではなく、在る素材、手持ちのカードを惜しみなく出して編集していったからこそ1969年のビートルズたちは生き生きと動きだしたし、曲が練られ、ライブ・バンドとして呼吸しだす、非常にスリリングな様子を観ることができるようになっている。(以下、本誌記事に続く)



ザ・ビートルズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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