奇しくもほぼ3年前、2020年7月号の本誌はボブ・ディランの大特集だった。8年ぶりのオリジナル楽曲アルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』のリリースを受けてのもので貴重なインタビューの数々、膨大なディスコグラフィー、新作レビュー等が雲海のように並び、今号と併せると壮大でドラマチックなディラン物語が浮かび上がる。
前回筆者が書いたことで覚えているのは新しい聴き手にとり、いかにボブ・ディランが厄介な存在かということ。名盤、名曲はあまりに数多く、最初のアルバムからでも、というと地味な弾き語りが続く。では新しいところをとなると、聴き手が生まれてもいない時代のスタンダード曲集だったりする。
自分には縁がないアーティストと思っても不思議じゃないが、逆に言えばどこでもが入り口なのだ。聴いてみようか、と思った瞬間が出会いの“今”であり、“これでも”の1枚が決定的なピックアップで、そこから世界中の誰とも違う、自分とディランの物語が始まる。こんなアーティストと時代を共有する幸せは、後世の人々にどれだけ羨ましがられることか。
そんなディラン、これを書いている今も来日公演中だ。最新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』の楽曲中心のライブは楽曲との真剣勝負を促し、まさに究極のディラン体験へといざなう。ステージから通常のエンターテインメントのような世界が発信されることはないが、自伝的であったり、普遍的な愛や願いを歌う楽曲の数々によって誰もが固有の風景を思い起こしていく。それこそ今のディランが求めているものであり、瞬間の無二のドキュメンタリーとなっていく。
今回の公演中にも突然、グレイトフル・デッドのナンバーを初演して世界中のディランマニアに衝撃を与えたりもしたが、それも一風景だ。6月には今回の公演でも歌われた“川の流れを見つめて”や“我が道を行く”、“アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト”等が含まれた2021年の限定配信ライブがCD発売されるし、8月にはティモシー・シャラメ(!)が若きディランを演じる待望の公認伝記映画がクランクインするという。まさに現在も進行形の伝説がここにある。(大鷹俊一)
<コンテンツ紹介>
★来日ツアー東名阪完全レポート
★1964年の超貴重インタビュー
★1978年の初来日振り返り論考
★「究極の三曲」の歌詞徹底解説
★特別寄稿:浦沢直樹“漫画ライブレポート”
ボブ・ディランの総力特集は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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