今年はおとなしいビートルズ周辺から特大ニュースが突然届けられた。<ポール・マッカートニー、AIとビートルズ最後の楽曲制作>、いかにも新しもの好きなポールらしい試みながら、そう簡単に思いつきレベルと片付けられないドラマがこの背景にはある。
ことの発端は90年代ビートルズ最大のプロジェクトであり、音と映像でたどる初の公式ヒストリー<アンソロジー>で、未発表のアウトテイク等も大量に出され大きな話題となったが、その超目玉がポール、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターが集まり、ジョン・レノンの残した未発表曲をビートルズとして完成させたことだった。“フリー・アズ・ア・バード”“リアル・ラヴ”が発表され、その第三弾として予定されたのが、今回ポールが完成させたと噂される“Now And Then”だ。
というので“Now And Then”前提で話すが、この曲はもともと79年頃にジョンがニューヨークのダコタ・ハウスで、そろそろ音楽シーンへの復帰をイメージしながら創作を開始していた時期に書かれたもので、ピアノの弾き語りデモが残されているが、サビの歌詞など未完の部分も多く、またデモのテープもノイズを含んだ音質的にかなり厳しいことからアンソロジーでの制作が中止された経緯がある。しかしポールはこの曲へは愛着があったようで、10年代にも“フリー・アズ・ア・バード”などに手を貸したジェフ・リンに声をかけて仕上げようと試みたりもしたらしい。
そんな長年の宿題が大きく進んだきっかけは、一昨年公開され話題を呼んだ映画『ザ・ビートルズ: Get Back』で、AIを駆使してメンバーの声を認知させスタジオでのトークや内緒話を生々しく浮かび上がらせたが、同様にジョンの歌声だけを取り出しクリーンに仕上げていったのだろう。
もともと美しいメロディとジョンの切ないファルセットが耳に残る美曲ながら、アレンジなど不足している部分もあって、そこらにポールがどんなマジックをかけたのか。ビートルズ最後の曲、そんな売り文句にポールものっているのだから、これは期待が膨らむばかりだ。 (大鷹俊一)
ポール・マッカートニーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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