フジロックから約1年、アーロ・パークスが最新アルバム『マイ・ソフト・マシーン』を引っ提げて再来日を果たした。待望の単独ツアーだけに東京&大阪は共にソールドアウト! 超満員の恵比寿ガーデンホールに降り立った彼女は、その期待に応えて余りあるステージを見せてくれた。
今回のステージはエレクトロニックサウンドを取り入れた最新作のモードを反映した進化版で、哀しみの先に仄かな希望を灯すような彼女の音楽が、その柔らかくナイーブな質感は保ったまま時にラウドに弾け、ダークにうねり、1年前とは比べ物にならないダイナミクスを獲得していく様子に驚かされる。
会場を丸ごと真綿で包み込むようなアーロのエアリーな歌声が揺蕩う高音域に対し、サブベースを重ねた分厚い低音域がより存在感を強めた結果、中空をユラユラと漂っていた彼女の曖昧な感情が大きくうねり出すのが感じられる。エレクトロニックの要素が空間を広げる役割を果たしていた一方で、その空間を隅々まで使い尽くしていたのがバンドサウンドだ。
「うちのバンド凄いよね!」と彼女は何度も言っていたが、「レディオヘッドの『イン・レインボウズ』に影響を受けて書いた」という“Eugene”や、アシッドなドラムスに痺れた“Purple Phase”のサイケデリック、さらにはアーロが前屈みでギターを掻きむしる超絶エモい“Devotion”まで、オルタナキッズとしての彼女のリアルな輪郭が浮かび上がってくる圧巻のプレイだ。
「みんながこの曲を大好きって事実が私は好きなんだ、一番ポジティブで希望を感じられる歌だから」と言って始まった“Hope”も素晴らしかった。《みんな傷ついているし、それってたいへんなこと。でも君は一人じゃないよ、君が思っているほどにはね》と歌うこの曲の押し付けがましくないメッセージ性、黙って隣に寄り添うようなシンパシーは、改めて日本の我々のメンタリティとの親和性が高いと思った。「静かに聴いてくれるみんなからのリスペクトを感じる」とアーロも言っていたように、大きな歓声と静かに耳を傾けるひとときの狭間で、アーロ・パークスとファンの温かな絆が結ばれ直した一夜だったのではないか。 (粉川しの)
アーロ・パークスの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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