フューチャー・アイランズが帰ってきた! と、思わず快哉を上げてしまうのは自分だけではないはずだ。ボルチモアの叙情派シンセポップバンドが2020年の前作『アズ・ロング・アズ・ユー・アー』以来の通算7枚目のアルバム『ピープル・フー・アーント・ゼア・エニモア』をリリースしたのだ。
フューチャー・アイランズといえば何といってもボーカルのサミュエル・T・へリングの熱いパフォーマンスが魅力だが、彼は前作からの間にドラマ『チェンジリング~ニューヨークの寓話~』でなんと俳優デビューを果たしている(Apple TV+で配信中)。サムは演技においても見事に複雑な感情を表現し、あらためて存在感の強さを示していた。その成果は、確実に新作に発揮されている。
ドライブ感溢れる“キング・オブ・スウェーデン”で始まる『ピープル・フー・アーント~』は「これぞフューチャー・アイランズ!」と誰もがガッツポーズしたくなるだろう充実作で、アルバムごとに音楽性を大きく変えるタイプのバンドではない分、スタイルの洗練が味わえる一枚に仕上がっている。クラフトワークの影響下にあるよくデザインされたシンセポップサウンドとサムの情熱的な歌のコントラストがさらに際立ち、聴いていると切なさと温かさが内側で同時にわき起こってくるようだ。
《ぼくに必要なのはきみだけ》とバリトンで歌うサムは、誠実さを迸らせてますますフロントパーソンとしてのカリスマ性を高めている。とくにミドルテンポ以下のバラードでは包容力のある歌声をじっくり聴かせ、シンガーとしての円熟すら感じさせる。歌を支えるシンセサウンドも、それ自体がメロディアスでリリカルだ。
ファンには熱烈に愛される一方で、世間的には「あの暑苦しいボーカルのバンドでしょ?」と色眼鏡で見られることもあった彼らだが、着実な活動によっていまや広く信頼されるベテランの域に達している。デヴィッド・レターマンがホストを務める番組『レイト・ショー・ウィズ~』での伝説的な「胸叩きパフォーマンス」から早10年、日本でももっと火がついてもいいはずだ。来日切望! (木津毅)
フューチャー・アイランズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。