文=小池宏和
ケミカル・ブラザーズが、最新アルバム『フォー・ザット・ビューティフル・フィーリング』を携えて繰り広げた来日公演。追加の2月1日公演を含め、2日、3日という東京ガーデンシアターの3連発は、連日SNSのホットトピックとして浮上してくるほど大いに盛り上がった。2019年フジロック以来の来日、単独公演としては2016年以来となる。
劇場型ホールの特性を巧みに利用した今回のパフォーマンスは、そのオーディオビジュアルライブ体験をより強く打ち出す内容となっていた。幅広い年齢層のファンを獲得しているとはいえ、デビュー時期からケムズを支えてきたファンは現在40~50代が中心だ。ともに歳月を乗り越えてきたファンと、いかにして熱狂を維持し、開拓してゆくか。今後の興行を考えていく上でも、重要な試金石(すでに「成功例」だが)のステージとなっていたように思える。
背面いっぱいのスクリーンには、さらに無数の照明やレーザー光源が仕込まれており、トム・ローランズとエド・シモンズを城壁のように囲む機材ラックも、可動式の照明台を兼ねている。放たれる楽曲と、映像や照明の演出が連動するギミックにはあらためて舌を巻く思いだ。
昨年には、ケムズが急激なインフレを理由に北米でのツアー開催に難色を示しているという報道に驚かされたりもしたが、この大掛かりな演出ギミックの運搬費用を考えると、その判断の難しさがより具体的に見えてくる。ラップトップひとつで世界中の会場を飛び回るDJたちの身軽さとは、一味も二味も違うのである。そしてその「違い」こそが、我々を逃れ難い熱狂の坩堝へと叩き込んでいるものの正体に他ならなかった。
3DCGモデリングされた巨大な人体が手にしたライトでフロアを照らす“ゴー”を手始めに、序盤は抑制の効いたエレクトロニックビートで温めにかかる。“MAH”で次第に剛腕グルーヴが立ち上がり、スクリーン上の怪人の指先からはレーザーが発射。“ノー・リーズン”、“Hey Boy Hey Girl”で否応なく序盤の熱狂が形成される。(以下、本誌記事へ続く)
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