現在発売中のロッキング・オン11月号では、ビリー・アイリッシュのライブレポートを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=粉川しの
3年ぶりのビリー・アイリッシュは、驚くほど「素」だった。ステージ狭しと跳ね回り、笑顔でファンに語りかけ、空中で足をパタパタさせながら、自分のベッドルームでくつろぐかのように寝っ転がりながら歌う様はどこまでも自然体で、彼女の肩から「ビリー・アイリッシュ」という名の重荷が、ついに下ろされたのだと感じた。「これまでで最も自分に正直なアルバムで、ここに全てを曝け出すことができた」とビリーが語る、最新作『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』が、彼女をかくも自由にしたのだろう。会場のさいたまスーパーアリーナは、ビリーの来日公演では過去最大規模だが、これほど彼女を近くに感じられたライブも初めてだった。
たまアリに入場し、真っ先に目に飛び込んでくるのは真っ白な長方形の巨大ステージだ。『ヒット・ミー〜』ツアーは360度ステージを採用。どの角度からでも視界を遮られることなく、アリーナ中央に鎮座するステージ上のビリーの姿を捉えることができる。3年前の有明アリーナではステージに灰色のスロープが設置され、ステージと客席の間に結界を張るかのような威容を示していたのと対照的だ。中央にはLEDビジョンを張り巡らせたキューブが設置され、上部には四つ角に巨大スクリーンが、フロアにもLEDが埋め込まれている。一見してシンプルなセットだが、ショーが始まるとビジュアルが立体的に構築され、ビリーの作る世界が会場全体へと拡張されていく。シンプルだけれど、実は多彩で多面的なセットであり、それは今回のパフォーマンスと共通したテーマだったと言える。
会場が暗転するとキューブが宙に浮き、中からビリーが登場するや会場は一気に大歓声に包まれる。1曲目は“チヒロ”で、全世界共通のオープナーではあるものの、この『千と千尋の神隠し』の国ではちょっと特別に感じられて嬉しい。「東京、調子はどう?」との掛け声と共に、“チヒロ”の重低音をさっと払うようにバンドが軽快な4ビートを刻み始め、そのまま“ランチ”へ。ステージを全力で駆け巡るビリーの勢いは瞬く間に会場中に伝染、今日は未だかつてないほどポジティブでジョイフルなビリー・アイリッシュに出会う日なのだと、早くも確信したファンも多かったのではないか。一方、ビリーを閉じ込める檻を想起させるダウンライトも印象的だった“NDA”は、この日最もハードでダウナーなナンバーだった。いや、むしろ唯一、ハードでダウナーであることを意図してプレイされた楽曲だったと思う。ハードでダウナーなナンバーには事欠かないビリーだが、今回のパフォーマンスは最後に暗闇に光が差し込み、奈落の底から彼女が浮上するのを、常に感じられるものだったからだ。(以下、本誌記事へ続く)
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