米津玄師のこれまでのシングル曲はどれもファンタジックでポップではあるけれど、常に哲学的で思想的でもあった。
"サンタマリア”も、“Flowerwall”も、”アンビリーバーズ”も”LOSER”も、世間とは一線を画した米津独自の「言いたいこと」をちゃんと筋道を立てて語ろうとする、メッセージとしての歌詞だった。
だけどこの“orion”は違う。
幸福な瞬間と、それをもう一度と願う祈りとが交互に歌われ、いつも見えるけれど手が届かない「オリオン」という星座のイメージとともにその思いを聴き手に委ねるような、理屈で説明できない歌詞だ。
米津玄師としては珍しい。
ではなぜ、今回そうした曲が生まれたのか。
“orion”を作った時、最初にイメージしたのは「恋愛」だと米津はインタビューで語っている。
恋愛だから、哲学でも思想でも理屈でもメッセージでもないのである。
そこには喜びと悲しみとせつなさと祈りしかないのだ。
ではなぜ、米津は今、そういう曲を作ろうと思ったのか。
それは羽海野チカ『3月のライオン』のアニメタイアップだからである。
『3月のライオン』はベタなラブストーリーではないが、米津玄師がこの漫画に感じるあらゆる感情を何かに例えるとそれが恋愛だったのだ。
米津玄師にとって羽海野チカの作品は、理屈でも思想でもなく、まるで恋愛のような体験そのものなのだ。
米津玄師をそこまでの気持ちにさせる作品はそう数多くはないだろう。
それほどのリスペクトがこの曲には込められている。
それが聴いている僕たちの胸にも広がる。