なんと5年ぶりとなるポール・マッカートニーの新作『エジプト・ステーション』。前作『NEW』のリリースから3度も来日してくれているので、あんまり久しぶりな気はしないのがとても不思議な感じだ。いずれにしても、『NEW』が2013年時点でのポールの新機軸を腰を据えて打ち出す作品だったのに対して、今回はその『NEW』とはまた違ったポールの味を打ち出す素晴らしい作品になっている。
前作『NEW』はポール・エプワースやマーク・ロンソンをプロデューサーに迎え、明らかに新しいオーディエンスを意識した作品になっていたが、今回の『エジプト・ステーション』はポール本来の持ち味と魅力を十二分に前面に打ち出した内容になっている。もちろん、今回もグレッグ・カースティンとライアン・テダーという、第一線で旬のプロデューサーが参加している。
たとえば、ライアン・テダーが参加したのは"Fuh You"1曲のみについてで、作曲もポールと一緒に行っている。ほかはすべてグレッグ・カースティンのプロデュースによるものだが、どちらかといえばグレッグの役割はサウンドに奥行を出していくことくらいに止まっている印象が強いし、とにかく、収録曲16曲にわたってあまりにもポールらしい楽曲とパフォーマンスがこれでもかとばかりに揃っているのだ。
たとえば、先行シングルとなった"I Don’t Know"と"Come on to Me"についてはそれぞれにポールのセンチメンタリズムと強烈にポップなロック・リフを前面に打ち出した必殺曲となっていたし、あるいは"Fuh You"などはポールのメロディとポップ・センスを見事にライアン・テディのパワー・ポップと融合させていく試みとなっていて、これなどはある意味で前作でも特徴的だった魅力のひとつだ。
しかし、そのほかにもポールだから出来る、あるいはポールにしか出来ない楽曲も満載で、これがあまりにもたまらないのだ。たとえば、"People Want Peace"などはタイトル通り、今の世相について歌った曲で、ヴァースからタイトルを歌い上げるコーラスへと進み、ここまでは順当なポール的展開。そこから次のヴァースまでへとつなげるブリッジ部分のサビというか、ポールの歌とバックの女性コーラスの絡みの甘さと美しさは極上のポール的展開でしびれてしまう。
さらにたまらないのは、ファンキィなロック・ナンバー"Who Cares"のあまりに気持ちいいリズムとポールのヴォーカルとの小気味のいい絡みで、病み憑きになってついついリピートしてしまう。同様にラテンのグルーヴで引っ張りまくる"Back in Brazil"はポールならではのアレンジに満ちていてこれもまた素晴らしくて病み憑きになってしまうのだ。
それだけでなくメロディ、演奏、曲想とすべてがあまりにもポール的な"Dominos"は文句なしの名曲そのものだし、途中から重低音がうねり出すグルーヴ・ロックの"Caeser Rock"もポールならではの破天荒さでたまらない。極め付けはさまざまパートの組曲的展開を披露する"Despite Repeated Warnings"と"Hunt You Down/Naked/C-Link"で、終盤のこの2曲のロック魂は素晴らしすぎるのだ。
要するに今回はどこまでもポールの魅力でたたみかけてくる、これはもう間違いなく傑作。なにがそうさせたのかはわからないが、とにかく、このどこまでも、ある意味では臆面もないほどまでに奔放で潑溂としたポールならではの作風は全盛期のウィングスを思わせるもので、そこがとても感慨深いし、ひたすら嬉しい。10月末からの来日公演では1曲でも多くこの新作の楽曲を聴かせてくれるとなお嬉しいと思う。 (高見展)
9月7日(金)にリリースされた『エジプト・ステーション』、そして来日公演の詳細は以下の記事より。
ポール・マッカートニーの特別企画記事は現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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