2曲目の“Raise Your Hands”を歌い終えた後に、ジョン・ボン・ジョヴィは目をキラキラさせて満杯の東京ドームを見渡しながら「本当に長かったな。5年ぶりだよ、トーキョー」と挨拶し、皮膚を震わせるほどの大歓声を誘う。今年、ロックの殿堂入りを果たしたボン・ジョヴィの、『This House Is Not For Sale』ツアー。東京と大阪でドーム公演がスケジュールされた来日公演の初日である。
1990年代後半の活動休止期間が明けてから、ボン・ジョヴィの来日公演では東京ドームの風景が当たり前になった。しかし、その活動休止期間を含めても、5年もの空白期間というのはデビュー以来初のことである。何しろ日本のリスナーに愛され続けてきたバンドなので、殿堂入り後の祝祭感はもちろんのこと、そこには一種の飢餓感が立ち込めていたと言ってもいいかもしれない。
2016年の最新アルバム『This House Is Not For Sale』のジャケット・アートワークでもある古びた家屋の写真を背景に、ライブはそのタイトル・チューン“This House Is Not For Sale”から始まる。自ら石を積み上げ、釘を打って作り上げた家は、すでに古びてボロボロかもしれない。しかし、その帰るべき家は、売りに出しているわけじゃないんだぜ。ジョンが歌う「家」とは、キャリアを重ねたバンドのことを指しているのかもしれないし、あるいは古びたロックのことを指しているのかもしれない。
ジョンが近年の苦難を赤裸々に語ったロックの殿堂式典。そこで歌われた“When We Were US”を含め、新作曲はボン・ジョヴィの歩んで来た道のりに自覚的で、深いノスタルジーが滲んでいる。しかしそれを形にしたからこそ、彼らは過去の数々の名曲を思いっきり演奏する理由を手にしていた。ジョンは経てきた年月を遡り、1983年の初のラジオ・オンエアを振り返るや否や、“Runaway”イントロのキーボード・リフが跳ね上がって嬌声を巻き起こす。スクリーンには、セピア色に加工されたステージ映像が映し出されていた。
脱退したリッチー・サンボラに代わって正式加入したフィル・X(前回来日時はサポート・メンバーだった)の、野太くも鮮明なリード・ギターが本当に素晴らしい。ボロボロに塗装が剥げたギターでソロを弾き倒す“Born To Be My Baby”や“Keep The Faith”は今のボン・ジョヴィのモードに合っているし、“Livin' On A Prayer”のトークボックスを駆使したプレイもきっちり魅せてくれる。キーボードのデヴィッドだけは、昔からあまり見た目が変わっていないのがちょっと可笑しい。もう1年半以上も今回のツアーを続けているのに、この人たちはなんて楽しそうにプレイするのだろう。
“God Bless This Mess”のとき、スクリーンに「NOBODY WRITES ROCK ANTHEM LIKE JON BON JOVI」という記事の見出し(USAトゥデイの記事らしい)が映し出されていたのも印象深かった。オーディエンスは、ジョンからメロディを奪うようにして、誰も彼もがボン・ジョヴィのリード・ヴォーカルみたいな顔をして歌っている。時代が巡っても、このスタジアム・ロックとしての巨大な一体感は、他の何物にも代え難い価値をもたらしているのだ。(小池宏和)
※11月28日:新たにライブ写真を追加しました