初単独来日決定! 髙橋大輔選手がフリー・スケーティング楽曲に選んだジョン・グラントとは誰か?

初単独来日決定! 髙橋大輔選手がフリー・スケーティング楽曲に選んだジョン・グラントとは誰か?

まさかこんな形でジョン・グラントが脚光を浴びるとは!

というのが、かねてから彼の動向を追ってきた一ファンの率直な気持ちだ。4年ぶりの現役復帰を果たしたフィギュア・スケーターである髙橋大輔選手が、フリー・スケーティングの楽曲としてジョン・グラントの“Pale Green Ghosts”を使用し、フィギュア・ファンを中心に大きな話題になっているのだ。その勢いを受けてか、初の単独来日が来年の3月に決定している。過去のフェス出演時での彼のステージに魅了されたひとも多いだろうとは思うが、まだまだ日本では知られていない存在。この絶好の機会にジョン・グラントの魅力をあらためて紹介したい。

ジョン・グラントはアメリカ・ミシガン州出身のシンガーソングライターで、フォーク・ロックを基調とするザ・サーズのボーカリストとして90年代から00年代にかけて活動していたが、バンドはヒットには恵まれなかった。その後ソロに転向し、2010年にデビュー作『クイーン・オブ・デンマーク』を発表。その深いバリトン・ボイスを生かしたリッチなピアノ・バラッドの美しさは次第に注目を浴び、なかでもアンドリュー・ヘイ監督によるイギリスのゲイ映画の傑作『ウィークエンド』(2011年)の主題歌に採用されたことでゲイ・コミュニティからの人気を確固たるものにした。そう、彼の歌のテーマは一貫してゲイである自身についてと、その愛についてなのである。

その後、アイスランドに移住したグラントはそこで制作したセカンド・アルバム『ペール・グリーン・ゴースツ』(2013年)を発表。その頃、HIVポジティブであることを公表し、感染についてや元彼への愛憎を切々と綴った同作は深い共感と高い評価を得ることとなり、その年の各メディアによる年間ベスト・リストに並べられることとなった。

この頃からジョン・グラントの歌の凄みが何なのかがはっきりしてくる。それは「正直さ」だ。ゲイであること、HIVポジティブであることを包み隠さないばかりか、生きることや愛の苦悩を、ときおりブラックなユーモアを交えながらさらけ出す。たとえばリップシンクをせずこちらをじっと睨み続けるミュージック・ビデオが強い印象を残す“Vietnam”では、別れた恋人への呪詛にも似た強烈な恨みを吐き続けるのである。そのソウルフルなバラッドは、彼の表現の真髄を生々しく伝えてくれる。


いっぽう、『ターネーション』の監督ジョナサン・カウエットが監督した“Glacier”のビデオでは、第二次世界大戦前から現代に至るセクシュアル・マイノリティの権利運動とポップ・カルチャーを怒涛の勢いでコラージュしている。この曲ではジョン自身の苦悩を、すべてのマイノリティや生きづらさに苦しむ人びとと重ね合わせ解き放つ。あまりにも感動的な映像と真摯なメッセージがここにはある。ジョン・グラントの歌はきわめて個人的な内省を追及しているがゆえにこそ、あるとき揺るぎない普遍を獲得するのである。


サード・アルバム『グレイ・ティックルズ、ブラック・プレッシャー』(2015年)ではニューウェーブ風のエレクトロニック・サウンドへと音楽性を広げ、相変わらずゲイ中年としての孤独や愛を見つめている。たとえば40代も後半に差し掛かった彼がようやく見つけた愛を高らかに謳うシングル“Disappointing”は、ドゥワップ調のコーラスが楽しいシンセ・ポップ。ベア系のゲイ・サウナを舞台にしたゲイ濃度100%のミュージック・ビデオも彼の真骨頂だ。


そして今年発表した新作『ラヴ・イズ・マジック』はシンセ・ポップの要素をぐっと増し、どこかシュールなエレクトロニック・サウンドと華麗なオーケストラ・バラッドが混在するより複雑なものとなった。もちろんテーマは50を過ぎた彼の人生。シングル“Is He Strange”では前作で愛し合っていたボーイフレンドとの別れやそれに対する後悔が吐露される(ああ……)。ジョン・グラントはいまなお生きることや愛に苦悩するゲイ中年であり、それを正直に綴ることによって自身と聴き手の心を共振させる。


これまでのフェス出演では時間が限られていたため簡潔な内容だったが、単独公演では彼の濃密な歌世界が純度を保ったままフルセットで披露されるに違いない。彼の歌の悲しみは彼だけのものであり、しかしだからこそ、わたしたちに身に覚えのあるものである。いまやゲイ・コミュニティにおいてヒーローのひとりであるジョン・グラントだが、彼の歌はもちろん聴き手のジェンダーやセクシュアリティに関わらずに響いてくる。このチャンスをどうか逃さないでほしい。(木津毅)



2019年3月7日(木)と8日(金)に東京キネマ倶楽部で開催されるジョン・グラントの来日公演の詳細は、Hostess Entertainmentの公演特設サイトでご確認ください。
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