昨年末の来日公演があまりの圧倒的な内容で、真剣にバンドのピークが今来ているとしか形容のしようがなかったキング・クリムゾン。ロッキング・オンではジャッコ・ジャクスジクとメル・コリンズの両メンバーにインタビューに答えてもらったが、惜しくも誌面から洩れたエピソードなどをここでご紹介してみたい。
ジャッコは取材中、セットリストがかなり流動的で曲順も構成も日によってかなり違っていることに何度か触れていた。マネージャーのデイヴィッド・シングルトンによると、午後の早い時間にロバート・フリップからセットが発表されるが、これが夕方にずれ込むこともあるのだという。ジャッコはこのことについて、以下のように語ってくれた。
ジャッコ「ここ数日、しばらくやってなかった曲が復活していて、それが"Peace -An End"なんだ。これはぼくがひとりっきりでやらなきゃならない曲だからものすごく怖いんだよ。これは経験者ならわかると思うけど、交通事故みたいなんだ。
進行している間はどうにかしようと必死でやれるんだけど、いったんやり切ってしまうともうぐったりして、余力がまったく残らないんだよね。だから、"Peace"の次にどの曲をやるのか、これが大問題なんだ。それだけトラウマチックな演奏をやった後は、もう指がほとんど動かなくなるからなんだ」
デイヴィッド「その問題の次の曲が昨日はよりにもよって"Fracture"(この曲も半年ぶり)だったんだね(笑)」
ジャッコ「そうだよ。"Peace"の次に"Fracture"ときたからね」
デイヴィッド「なんか今日も久しぶりな曲を2曲くらい入れるっていう話だったよ」
ジャッコ「マジか!?」
また、今回の取材ではジャッコについてはそのキング・クリムゾンへの愛が言葉の端々から溢れ出てくるようで感銘を受けたが、バンドについて次のようにも触れていた。
ジャッコ「もともと加わりたいバンドなんてぼくにはほとんどないし、やっぱりそういう対象としてはキング・クリムゾンくらいしか考えられないんだ。ただ、きみもきっと同じ年頃くらいにこのバンドが好きになったんだろうから、いかにこのバンドに入るっていう考えが突拍子もない思いつきかってことはわかるよね?
子供時代から引きずってきた最も頭のおかしい夢とでもいえるもんだよ……このバンド(『アイランズ』の頃のクリムゾン)を初めて観たのはちょうど13歳の時だったんだ。13になって一月目だよ。もう完全にやられちゃってね。なんか、人生が変わってしまったような気分でライブ会場を後にしたよ。
その後、本当にミュージシャンになっちゃって、あの頃の想いを振り返ると、十代の頃にありがちな憧れだったのかなと思えるんだけど、それがこうやって現実になっちゃってるんだからね。
●そのバンドに本当に入っちゃったっていうのはどういう気分だったんですか。
ジャッコ「最初のツアーではね、あの時の13歳の少年もずっと一緒にいるような感じだったなあ。でも、最近はその少年ももっぱらうちで留守番してくれてるね(笑)」
その一方でメル・コリンズについてはほぼまんべんなく発言を誌面に反映させてもらったのだが、余談として、マネージャーのデイヴィッドとオーストラリア公演について話し合っていたのが興味深かった。
キング・クリムゾンはこれまでまだオーストラリア公演を実現させたことがなく、デイヴィッドが2020年にでも日本公演と組み合わせて行ってみたいと語ったのに対し、メルも「ブライアン・フェリーに話を聞いたら、まったく同じことを言っていたよ。オーストラリアと日本を組み合わせるといいって」とぽろっと話していて、そういえばメルはザ・ローリング・ストーンズを筆頭に数知れないほどスター級のアーティストとわたり合ってきているのだった、とあらためて気づかされた。
そんな中、ロバート・フリップとの邂逅がとりわけ大きな意味を持つことを明かすインタビューとなったことに、感銘を受けた。(高見展)
キング・クリムゾンのインタビュー記事は現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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