シェリル・クロウの集大成がここに! 豪華ゲストとともに作り上げた最新作『スレッズ』は間違いなく彼女の最高傑作
2019.09.03 19:10
前作『ビー・マイセルフ』から約2年ぶり、シェリル・クロウの最新アルバムがリリースされた。『スレッズ』と名付けられたこのアルバムは、キース・リチャーズ、ウィリー・ネルソン、スティーヴィー・ニックス、エリック・クラプトン、ジェイムス・テイラー、ヴィンス・ギルなど、錚々たる顔ぶれのゲスト・ミュージシャンが参加していることから、発売前から期待が高まっていた。このアルバム、前作のリリース時にはすでに制作が始まっていたというから、時間をかけて1曲1曲を丁寧に作っていったのだということが推測されるし、実際に聴き込めば聴き込むほどに、彼女の音楽への愛が惜しみなく捧げられたアルバムであることを実感する。
シェリル・クロウは、「これが最後のアルバムになるかもしれない」と語ってもいて、それは長年彼女の歌を聴き続けてきたリスナーからすれば寂しいことなのだけれど、完成した『スレッズ』を聴いて、その高い完成度に、これはやはり「集大成」なのだと納得してしまった。それほどに素晴らしい傑作だ。
シェリル・クロウはそもそもキャリアのスタートからして、様々な著名アーティストのバッキング・ボーカルを務めるなど、多くのミュージシャンたちと共演してきたシンガーだった。80年代後半のマイケル・ジャクソン「Bad World Tour」への参加、さらにはスティーヴィー・ワンダー、ドン・ヘンリーなどのレコーディングにも参加するなど、その歌声はビッグネームたちを魅了した。彼女の素晴らしさは、どんな個性豊かなミュージシャンとも自然に調和できるボーカリストとしての力量と、彼女の歌声自体が持つ力みのないグルーヴにある。それは1993年、彼女自身のデビュー・アルバム『チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ』で、多くの音楽ファンに知られることとなった。
決して多作というわけではないが、アルバムをコンスタントに制作してきたシェリル・クロウ。デビュー以降も、彼女自身の作品で多くのビッグネームたちとの共演が実現していく。2002年の4thアルバム『カモン・カモン』ではドン・ヘンリー、スティーヴィー・ニックスのほか、リズ・フェアやレニー・クラヴィッツ等、多彩なゲストが参加し、その後もキッド・ロックとのデュエット“Picture”が話題となったり、ジョニー・キャッシュのアルバムに参加したりと、彼女の活動の源には常に、様々なミュージシャンとのコラボレーションを楽しむ、というモチベーションがあったのだと思う。2006年のアルバム『ワイルドフラワー』収録曲、“Always On Your Side”でのスティングとの共演も記憶に強く残る。
最新作にしてラストになるかもしれないこの『スレッズ』を聴くと、彼女がこれまでの音楽人生の歩みをひとつの作品にまとめあげたような、そんな感慨を受けることだろう。多くのミュージシャンとの共演もそうだが、彼女の音楽そのものへの感謝や愛情が全編通して詰め込まれたものとなった。
もともとは彼女の2ndアルバム『シェリル・クロウ』(1996年)に収録されていた“Redemption Day”は、2003年にジョニー・キャッシュとのデュエットがレコーディングされていて(ジョニー・キャッシュはその数日後に他界)、今こそこうしてリリースされる意味を強く感じるし、“Beware Of Darkness (feat. Eric Clapton, Sting & Brandi Carlile)”(原曲はジョージ・ハリスン)、 “Everything Is Broken (feat. Jason Isbell)”(原曲はボブ・ディラン)、“The Worst (feat. Keith Richards)”(原曲はザ・ローリング・ストーンズ)といったカバー曲の豊かさ、そして本当に様々なアーティストが参加した新曲たち。全17曲すべてが、それぞれに強くそのコラボレーションの必然を感じさせるものばかりなのだ。
“Lonely Alone (feat. Willie Nelson)”で聴かせるデュエットも、“Story Of Everything (feat. Chuck D, Andra Day & Gary Clark Jr.)”が生む絶妙なグルーヴも、シェリル・クロウだからこそ実現できた、まさに現代のアメリカン・ロックの集大成と言ってもいい。ラストの“For The Sake Of Love (feat. Vince Gill)”で聴かせるシェリル・クロウの歌声のしなやかで美しいこと。そして、それに寄り添うようなヴィンス・ギルの歌声の崇高なこと。聴き終えてしばらくその余韻に動くことができなかった。
決して彼女が音楽活動をやめるわけではなく、おそらくは「アルバム」という形態でのリリースについて「これが最後になるかもしれない」と語っているのだと受け取っているが、確かにこれだけのものを作り上げたのなら、「これが最後」と自身も納得できてしまうのではないかと思う。それほどの熱量と時間が注ぎ込まれ、そして音楽へのリスペクトが細部にまで溢れていて、ただただ聴き入るしかないアルバムだった。これはシェリル・クロウにしか形にできない、まさに音楽の「集大成」だ。(杉浦美恵)