今最も勢いのある男性ポップ・スターであるショーン・メンデスの、日本初のアリーナ公演だった。10代のうちにリリースした3枚のアルバムが全て全米1位獲得という驚異的な記録を打ち立てたショーンは、ビリー・アイリッシュらと共にいわゆるZ世代を背負って立つスターであり、そんな彼の同世代への絶大な影響力を証明するかのように、この日の横浜アリーナを埋め尽くしたオーディエンスもとにかく若い! 新世代! まさに「今」を象徴するショーンとファンが共に作り上げていった、最高のポップ・ステージだったのだ。
今回の来日は昨年リリースされた最新作『ショーン・メンデス』を引っさげての新作ツアーで、セットリストの約半分が同新作からのナンバーだった。つまりいわゆるベスト・ヒット・ツアーではないはずなのだが、それでもまるでベスト・ヒット・セットのように全編アンセムのステージになってしまうのだから、如何に現在進行形の彼が乗りに乗っているかの証左だろう。シングル曲もアルバム曲も分け隔てなく大合唱になる凄まじい盛り上がりには、彼がアルバム単位ではなくプレイリストで聴かれているストリーミング時代のスターであることも感じさせた。
ジョン・メイヤーのようなギター弾きのシンガー・ソングライターに憧れて曲作りを始めたショーンも、最近ではすっかりR&Bやヒップホップばかり聴いていると語っていたが、そんな彼の音楽遍歴がそのまま楽曲に反映されているため、彼のレパートリーには本当に多種多様なアンセムが揃っている。ギター1本で歌い上げるフォーキーな曲や、シンフォニックなピアノ・チューン、より大ぶりなアメリカン・ロックもあれば、スライド・ギターが激渋なブルーズもある。『ショーン・メンデス』は特にエレクトロ・ポップやR&Bにフォーカスしたアルバムで、プリンスばりのファルセットを聴かせる“Nervous”や、ファンク・ビートを効かせた“Particular Taste”などは、今年21歳になったショーンの少し大人びたセクシーな魅力が全開でたまらないナンバーだった。ちなみにショウの要所要所ではメドレーが挿入されるのだが、そこがアンセムの枠を超えたショーンのダイナミックなプレイヤビリティを存分に発揮するコーナーになっていた。シンプルなピアノの弾き語りから次々に展開していって、いつの間にかフル・バンドでブルーズをうねらせるエピック・ロックに到達していたりするのだ。
昨年『ロッキング・オン』のインタビューで「僕の完璧主義は一種の病気みたいなもの」と言っていたショーンだが、彼の完璧主義は音作りだけに止まらず、この日のステージの隅々まで行き渡っていた。映像や照明はアリーナに相応しくゴージャスなのにゴテゴテはしていなくてすっきりクリーンに整えられていて、それは「端正」、「美しい」と形容できそうなもの。散りゆく花の意匠などには侘び寂びの境地すら感じさせる。ショウの中盤はアリーナ後方のセカンド・ステージに移動してメロウなナンバーをプレイするのだが、セカンド・ステージには今回のツアーのメイン・モチーフである薔薇の巨大なオブジェが立っていて、その薔薇の麓でピアノを弾き語るショーンの姿もロマンティックだった。
オーディエンスに「一緒に世界を良くしていこう」と語りかけて始まったのが“Youth”だ。この曲はアリアナ・グランデのマンチェスター公演で起こった爆発テロ事件に衝撃を受けたショーンがカリードと共に書いたナンバー。あの爆発テロ事件では、ショーンやカリードと同世代の多くの若い観客が傷つき命を落とした。アコースティックなスパニッシュ・ギターで始まり、徐々に白熱していくこのナンバーは《君は僕らの若さを奪うことはできない》と歌うコーラスで凄まじい歓声と大合唱、そして一体感を生み出していく。何故ショーン・メンデスがこれほどまでに同世代から支持されるのか。その理由の一端を垣間見ることができた気がした。ピアノ・アレンジでコールドプレイの“Fix You”から、シームレスに“In My Blood”へと繋げるフィナーレの余韻も素晴らしかった。 (粉川しの)