享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート!

享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse

エイフェックス・ツインやLFO、オウテカといったアーティストに代表されるような高い実験性を持ったエレクトロニック・ミュージックを次々と世に放ち、その後もロックを含めエレクトロニックに限らないユニークな音楽のリリースを続けている英国の名門レーベル、Warp Recordsが30周年を迎えた。

それを記念してここ日本でも「WXAXRXP DJS(ワープサーティディージェイズ)」という名のオールナイト・イベントが開催されたのだが、なんとワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)、スクエアプッシャービビオという同レーベルを代表するアーティストが東京・京都・大阪でDJをおこなった。レーベルのファンからするとちょっと考えられないくらい豪華な布陣だが、それだけにもしかすると「ライブじゃないのか」と少しばかり残念に思われる向きもあったかもしれない。が、蓋を開けてみればDJツアーであることでかえって貴重なツアーとなったことは間違いない。大阪公演に足を運んだので、その模様をここにレポートしたい。

3人のうち、まず登場したのがOPNことダニエル・ロパティン。インターネット時代以降の感性におけるエレクトロニカ/IDMを提示し、現代を代表する電子音楽家となっているロパティンだが、その分DJのイメージはあまりないのではないだろうか。少なくとも自分は彼のDJを見るのは初めてで、プレイの内容をまったく想像できなかった。

享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse
享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse

なんとなくビートが複雑なエレクトロニカでゴリゴリに攻めるのかと予想していたのだが、意外なことに序盤はハウスの4つ打ちを基調にゆっくりとダンス・グルーヴを生み出していく。ただ面白いのは、だからと言ってBPMやリズムを合わせて精緻に繋ぐことはせず、むしろバラバラなジャンルを脈絡なく横断していくところだ。昨年の来日ライブでもそうした傾向があったが、ある種のプログレというか、テクノ、R&B、ブレイクコア、ドラムンベース、ノイズ、果てはダンスホールまでが突拍子もなくミックスされるのである。

しかしそれは、インターネットを介してありとあらゆる音楽が混在する現代を表象しているようで、なるほどDJプレイにも彼らしさが垣間見えるものだった。ただ、時折フロアに向かって手を挙げてみせたロパティンが思いがけず朗らかだったのは印象深かった。

享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse

そしてフロアが最大の沸点を見せたのが続くスクエアプッシャーだ。もはやDJというよりライブ・プレイに近く、自身の楽曲をガンガン挟みつつ徹底して高速ドラムンベース(いわゆる「ドリルンベース」)で畳みかける。前半のプレイにはアルバムにあるようにフュージョン・ジャズのテイストが入っており洒脱な面も感じさせたのだが、中盤からまったく遠慮なしで凶暴化。テンポはさらに高速になり、ハードな展開の応酬である。

トム・ジェンキンソンは機嫌良さそうに何度もフロアを煽り、それに触発されるようにクラウドは狂乱のダンスへと突入する。突き抜けてエクストリームな、ある種のエレクトロニック・ハードコアだ。ベテランの貫録を見せつつ、同時に無邪気を失わないスクエアプッシャーの個性は輝かしいばかりだった。

享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse

そしてビビオ。スクエアプッシャーがあまりにも激しかったのでそのコントラストもあり、グッと穏やかなリズムとグルーヴとなる。ゆるめのブレイクビーツとソウル。フォークの要素はないものの、ビビオらしさがプレイにもしっかり反映されている。ただ、かと思えばハードなドラムンベースやエレクトロが投入されるのは驚きだった。音源のビビオとは異なる、ラフというか、猥雑なレイヴ感覚がそこにはあったのだ。

享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse

ボーズ・オブ・カナダのボイス・サンプルやLFOのリミックスを挟むなどWarpとの繋がりもしっかりと示された。フォークトロニカやアンビエントのイメージが強いビビオだが、エクスペリメンタル系のエレクトロニック・ミュージックの正統な後継者であることがそこでは宣言されているようだった。

享楽と実験の激しい衝突――OPN、スクエアプッシャー、ビビオによる豪華DJプレイが実現した「WXAXRXP DJS」の模様をレポート! - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse

Warpによるエレクトロニック・ミュージックは、ダンス・フロアのためのものというよりリスニングのためのエレクトロニカ――要は簡単には「踊れない」電子音楽――のイメージが強いかもしれないが、じつは黎明期からダンスの現場との繋がりをしっかりと保持してきたレーベルでもある。もちろん「踊れる」機能を優先しただけのものではなく、三者三様の実験性が発揮されたDJプレイだったが、それぞれの「ダンス」がたしかに発揮されたことは大いなる喜びであった。脳と身体を激しく揺さぶられる、Warpにしか生み出せない夜がそこにはあった。(木津毅)

※レポートは大阪公演(11月3日)のものですが、ライブ写真は東京公演(11月1日)のものです。
rockinon.com洋楽ブログの最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする