集大成から生まれた新たな境地

デーモン・アルバーン『エヴリデイ・ロボッツ』
発売中
ALBUM
デーモン・アルバーン エヴリデイ・ロボッツ
一般的な意味での「ポップ・アルバム」としてはなんと初になる、デーモンの本格的なソロ・リーダー作。ゴリラズ/ザ・グッド、ザ・バッド・アンド・ザ・クイーン/ロケット・ジュース・アンド・ザ・ムーンを始めとする野心的なプロジェクトや他ジャンル(現代歌劇のスコアetc)への挑戦といった具合に、ここ10年以上彼が音楽的な視界および音楽ネットワークをいっさんに広げてきたのは周知の通り。しかし本作の基本的な核はデーモンとプロデューサーであるリチャード・ラッセル(XLレコーディングスの設立者。両者はボビー・ウーマックの復活作で意気投合した盟友でもある)とのきめ細かいコラボ〜音楽的な対話にある。その親密さを受け止めるだけのコンポーザーとしての蓄積・成熟・度量が、デーモンにとって(恐らく)もっともオープンかつパーソナルでメランコリックなこの楽曲集へと彼を開かせたのだろう。ブライアン・イーノやゴスペル合唱隊といったゲストもアクセントを添えているものの、プログラム・ビート/サンプリング/鍵盤を軸とするオーガニックなアレンジ〜「内耳神経をくすぐる」型のミニマルかつ繊細な音作りはザ・エックス・エックスやボン・イヴェールといったモダンな音響フォーク勢と共振、彼がまだ足を踏み入れたことのないサウンドスケープ造成へと繫がっている。親しみやすいメロディ・メイカーとしての優れた才も健在ながら、抑制されたエモーションが美しい作品中盤M6、7、8のシークエンスは新たなK点だろう。ブラー結成時から数えれば本作までほぼ四半世紀を経たわけだが、待っただけのことはある会心の1枚。(坂本麻里子)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする