アナログだからこそわかる! ストーンズの音の時代的変遷

ザ・ローリング・ストーンズ『ザ・スタジオ・アルバムズ・ヴィニール・コレクション1971 – 2016』
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BOX SET
ザ・ローリング・ストーンズ ザ・スタジオ・アルバムズ・ヴィニール・コレクション1971 – 2016

71年から16年までのザ・ローリング・ストーンズの15作品アナログ盤ボックスだが、なぜ、アナログで聴く必要があるのか。それは、デジタル加工した音源と違って、アナログはライブで聴く音に限りなく近いリアルな音源だからだ。ここにきて世界的にアナログへの再評価が高まっているのは、アナログを知らない世代がその事実を改めて発見しているからなのだろう。いずれにしても、アナログでしか堪能できない音の魅力は確かにあるし、それはストーンズもまたそうなのだ。 

収録作品は71年の『スティッキー・フィンガーズ』以降すべてのスタジオ・アルバム。大傑作『スティッキー・フィンガーズ』の今回最大の魅力はやはり、ある意味で完璧すぎるこのアルバムのレコーディングをアナログで聴けるところ。ジミー・ミラー・プロデュース時代の最高音質を実現した作品で、個人的にはデジタルとあまり違いはないと思うが、“スウェイ”の粘っこいグルーヴや“キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング”のフリー・セッション的な展開はやはりアナログで聴くとどこまでも気持ちいいものになっている。

『メイン・ストリートのならず者』はミック・ジャガー自身、音質がよくないと頻繁に言及しているが、そこがまさにアナログ盤の魅力で“シェイク・ユア・ヒップス”、“ライトを照らせ”のような曲では逆にそんなもこもこした音の中に奥行きも感じられ、独特な世界観が神々しくもあるのだ。明らかにスタジオとは異質な、作品が録音されたキース・リチャーズの居城の肌合いや湿り気まで感じさせるところが醍醐味だ。

『山羊の頭のスープ』は初めてジャマイカのスタジオで一貫してレコーディングしたもので、曲の出来についてはばらつきがあるものの、全体の音を通して楽しむにはアナログの方がうってつけな作品だ。

『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』はストーンズの作品の中でも最ももこもこした音が特徴的で、キースとミックが「ザ・グリマー・ツインズ」としてプロデュースを指揮するようになったアルバム。音の近さが際立っていて、おそらくそこがミックとキースの狙い。過小評価されている作品だが、楽曲も素晴らしく、アナログで全体を隈なく堪能したい。『イッツ・オンリー・ロックンロール』に続いてミュンヘンでレコーディングされたのが『ブラック・アンド・ブルー』。前作とは打って変わった、クリアーで硬質な音を捉えているところが時代の変節を感じさせて興味深いし、そこを堪能したい。この時期、同じミュージックランド・スタジオではレッド・ツェッペリンが『プレゼンス』を制作していた。

カナダ公演の際にキースが薬物斡旋の容疑で逮捕され、実刑判決もありうるというバンド史上最悪の危機の中で制作されたのが『女たち』。レコーディングはパリで行なわれ、バンドの切迫した状況とヨーロッパでのパンクの台頭もよく音に反映された作品で、音の甘さとハードさのダイナミズムがたまらない。ディスコ路線と片付けられがちな“ミス・ユー”の深いブルース感もアナログではなおさら顕著に堪能できる。

一方、キースの危機を脱した後にレコーディングされた『エモーショナル・レスキュー』は安堵感と解放感に満ちたレコーディングになっていて、クリアーでリラックスしたサウンドが気持ちいい。楽曲としてはどれも小粒だが、レイドバックしたストーンズのこのヴァイブはアナログだとなおさらよく味わえる。なお、この時のアウトテイクから、『山羊の頭のスープ』のアウトまで遡り、それを急遽作り直したのが『刺青の男』だ。特にボブ・クリアマウンテンによるミックスは80年代のサウンドを決定付けた衝撃的なもので、この抜けた感じと奥行き、さらにそれを補う低音を十全に味わうにはやはりアナログが最適だろう。

『アンダーカヴァー』から『ダーティ・ワーク』にかけてはキースとミックの対立期として有名だが、特に『ダーティ・ワーク』はこの刺々しさが聴くにたえないという人もいる。しかし、アナログだと、実はこれがまたたまらないのだ。エッジぎりぎりの際どさと腐れ縁のようなバンドのケミストリーが生み出す甘さとのせめぎ合い。これはアナログでしか味わえないものなのだ。

基本的に『スティール・ホイールズ』以降はCDをメインのフォーマットとして制作されているが、それでもアナログでこそ、その魅力が際立つ楽曲は多い。たとえば、”サッド・サッド・サッド”の転調時のダイナミックな響き、”ラヴ・イズ・ストロング”の音の隙間の存在感、”セイント・オブ・ミー”の渾然とした音のグルーヴなどがそうだ。また、『ブルー&ロンサム』のブルースはやはりアナログで聴きたい。(高見展)



『ザ・スタジオ・アルバムズ・ヴィニール・コレクション1971 – 2016』の詳細はこちらの記事より。

ザ・ローリング・ストーンズ『ザ・スタジオ・アルバムズ・ヴィニール・コレクション1971 – 2016』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」7月号に掲載中です。
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ザ・ローリング・ストーンズ ザ・スタジオ・アルバムズ・ヴィニール・コレクション1971 – 2016 - 『rockin'on』2018年7月号『rockin'on』2018年7月号
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