2月1日公開の日本映画『七つの会議』の主題歌に、ボブ・ディランの“メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ”(もともとは97年『タイム・アウト・オブ・マインド』収録)が選ばれた。そこからの流れで、日本独自編集のベスト盤として誕生したのが本作。ディランのラブ・ソング集――改めて考えてみたら、ありそうで、意外となかった企画だ。
収録トラックは全18曲。ディランの約60年に及ぶキャリアの各時代から、バランスよく選出されている。ただ、ラブ・ソングの「ラブ」の解釈は、曲ごとにさまざま。その振れ幅がディランらしくて面白い。
たとえば、75年発表の『血の轍』に収録されていた“ブルーにこんがらがって”。確かにこれは、女性についての歌である。その女性は、ひとりかもしれないし、複数かもしれない。過去の恋人かもしれないし、片思いかもしれない。実在する誰か(ひょっとしたらサラ?)かもしれないし、すべて妄想かもしれない。難解なパズルみたいだ。でも、その「こんがらがり方」こそが愛なのだと言われれば、これは確かに、紛れもなくラブ・ソングである。
一方で、もっとストレートな愛についての歌もある。『ブロンド・オン・ブロンド』収録の“アイ・ウォント・ユー”なんて、ほとばしる想いが160キロの剛速球で、ど真ん中に投げ込まれる。『ナッシュヴィル・スカイライン』収録の“レイ・レディ・レイ”は、場末のカントリー・シンガー風のスタイルで歌い上げられる――ジョークのようでもあり、照れ隠しのようでもある。かと思うと、前述の“メイク・ユー〜”は、年輪を重ねた円熟期ならではの、シナトラ的と言っていいほどにロマンティックなラブ・ソングだ。
ちなみに“メイク・ユー〜”は、過去にビリー・ジョエルやエド・シーランやアデルもカバーしている。僕が個人的にさすがだなと思ったのは、ブライアン・フェリーのカバー版(07年『ディラネスク』収録)。ディランの原曲と違い、フェリーには「色気」がある。たぶん一般的には、そっちが正解の歌唱法だろう。その代わり、ディランの歌には、彼の声にしかない深い味わいがある。
愛について歌うディランは、いつも、どことなくシャイだ。あまりにシャイすぎて、ラブ・ソングに聴こえない時さえある。でも、言葉に耳を傾ければ、それはやっぱりラブ・ソングである。シャイで、回りくどくて、冬の夜空の流れ星のようにロマンティックな愛の歌である。
そんなディランの初のラブ・ソング集。そう言えば、バレンタイン・デイも近いですしね。 (内瀬戸久司)
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