n-bunaの描く「青」は切ない。彼がこれまでの楽曲で青春、夏、青空といったモチーフを通して描いてきた情景には、いつもどこか寂寞感や失われた郷愁が漂う。ポップなギターロックに乗せて歌われるギャップも相まって高まる切なさ。そうして視点や時間軸を変えながら「青」を歌い続けるn-bunaの想いが結実しているのが、
ヨルシカ初のフルアルバムにしてコンセプトアルバムだ。売れないミュージシャンの青年は、詞を綴れば綴るほど、歌を歌えば歌うほど、失った恋人=エルマへの愛と思い出に囚われ、自分にとって音楽とは何か?というジレンマに陥り、夢を見失っていく、という物語を思わせる内容になっている。n-buna自身が投影されているかのようなリアルな葛藤と、タイトルどおりの哀しい結末の裏に滲むのは、《涙も言葉も出ないままで/ただ空の青さだけ見たままで》(“エルマ”)など、記憶を彩るさまざまな「青」。ピアノが際立つ多層的なアレンジ、緻密なメロディを歌いこなすsuisのボーカルと、バンドとしての進化を感じるとともに、n-bunaの心象風景そのものにあらためて魅了される一枚。(後藤寛子)