今年の2月に来日したイエスだが、あの時の50周年記念ツアーの模様が早くもライブ作品となったのが本作の内容。この時のツアーでは、『危機』と『サード・アルバム』の完全再現ライブが行われる公演日がそれぞれ1日ずつあり、ほかはベスト・ヒット・ライブとなったのだが、この演目がまんべんなくイエスの楽曲を取り上げていくものになっており、彼らの歴史を紐解くものとしては思いのほか感銘を受けるパフォーマンスになった。『危機』完全再現ライブも聴きたかったけど、これはこれでイエスというバンドを余すところなく堪能できるライブだったという内容で、その時のベスト・ヒット・ライブとほぼ同じものになっているのが本作だ。
とはいえ、まんべんなくといっても『90125』などのポップ路線のイエスは取り上げていないので、クリス・スクワイア亡き今、実質的なリーダーとなっているスティーヴ・ハウが正統なイエスだと考えるところの楽曲が取り上げられていると考えていいだろう。早い話がごく初期以外では、スティーヴ在籍時のイエスの楽曲のみとなっている。しかし、これがあまりにも正解な選曲で、70年リリースのセカンドから10年代の楽曲までと幅広いレンジの曲を取り上げつつ、「イエスとはこういう音だ」というイメージに違わないパフォーマンスをめくるめくように届けてくれるのが、このライブ音源なのだ。僕が観た東京公演とは若干楽曲の異同はあるが、基本的なセットの考え方はまったく同じものだ。実際、セットリストとして完璧とも思えたので、しばらくはこのままのセットで何年もツアーし続けるのではないかと想像したが、イエスは今ではカール・パーマーやエイジアらとのジョイント・ツアーに乗り出しているので現在のセットはかなり短いものになっていて、あの圧巻の内容は早くもこの作品でしか聴くことができない。
いずれにしても、冒頭から“危機”をまるまる聴けるわけだから文句のつけようがないし、それにしてもジョン・デイヴィソンのあまりにも見事なジョン・アンダーソン譲りのボーカル・パフォーマンスには舌を巻く。オリジナル・メンバーは今回ゲスト参加したトニー・ケイのみで、黄金時代を支えたスティーヴとアラン・ホワイト、最初の解散の直前と10年代以降からキーボードとしてバンドを支えているジェフ・ダウンズ、生前からクリス・スクワイアの代役を務めてきたビリー・シャーウッドというこの布陣が、実は圧倒的なまでに鉄壁なものだとよくわからせてくれる。 (高見展)
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