ちょっとオンド風なオープナーのタイトル・トラックが新鮮だ。プリミティブな前半から、じっくりと細部にも帆を張り広げていき、悠々と大海へ繰り出していくかのような流れのスケール感はこれまでにないもので、しかも続く2曲目の“You're Either On Something”が極めつきの美曲とくる。ここらの落ち着いた表現力にもバンドとして特別な決意が感じられる。
前作となる17年の傑作『ヴォルケーノ』は甘美なメロディに深みを増したサイケ・アプローチで高評価を得たし、爆音の中でそれを奏でる姿勢も洗練度を増していた。しかし、昨年、ドラムスのサミュエル・トムズが脱退、さらにデビュー以来、歩みを共にしてきたヘヴンリィ・レコーディングスを離れニューヨークのインディ、ATOレコーズからのリリースと、明らかに新しい段階に入ったことを強く意識したアルバム作りが行われている。かつてのフレーミング・リップスが展開したアプローチに、よりメロウな響きを強めたようなサウンドが基本となっているが、前2作に比べるとストレートなサイケ感は控え目となり(8曲目“Atomise”あたりが一番極端か)、60年代型のサイケ・ポップやマーク・ボランとポスト・パンク、オルタナ系の連中たちまでもが、自然に融合した世界が出来上がっている。
もちろんその根底にあるのは、時代やスタイルに縛られないポップ感覚が貫かれたメロディやボーカルで、どんな角度から聴いても素直に聴き進められる。「アルバム」としての仕上がり、流れをメンバーも強調しているが、とくに心地好い前半から中盤とすんなり進み、気がつくとディープな味わいのナンバーが続く後半へという構成、デザインはみごとで、これまでのアルバム以上に大物感が振りまかれている。 (大鷹俊一)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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