2019年、ティーンエイジャーの緊迫と脆さ

トレント・レズナー&アッティカス・ロス『ウェーブズ』
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ALBUM
トレント・レズナー&アッティカス・ロス ウェーブズ

2019年はトレント・レズナーとアッティカス・ロスのキャリアにおいて最も興味深い年となった。ナイン・インチ・ネイルズとしての新作を出さずして、彼らは引き続きポップ・カルチャーの頂点とも言える場所に立ち続けていたからだ。ご存知のように19年を代表するリル・ナズ・Xの大ヒット曲にNINのサンプルが使われたのを始め、テクノロジーがもたらす近未来の闇を描いたTVシリーズ『ブラック・ミラー』ではマイリー・サイラスにカバーされた。また新TVシリーズで絶賛された『ウォッチメン』のスコアも手がけている。とりわけアメリカにおいては世界の終わりかと思えるような昨今の社会情勢にあり、NINのサウンドが様々に形を変えながらもそんな社会全体の“サウンドトラック”になっているというのは必然だと思う。

彼らがオリジナル・スコアを手がけたインディ映画『Waves』も19年最も絶賛された作品の1本だ。実は監督トレイ・エドワーズ・シュルツと話す機会があり、オスカーも受賞していて恐らく引く手数多の彼らになぜお願いできたのか?と訊いたら、なんとトレントの方から連絡してきたと言ったのでびっくりした。監督の作品が好きで、機会があったら仕事したいと言われたそう。サントラに使う40ほどの曲を渡し、その中にNINは入ってなかったのに快く引き受けてくれたということ。スコアにおいても貪欲に新たな挑戦を追求していたということだ。今を生きる黒人のティーンエイジャーとその家族が主人公の今作は、彼らの未熟さ、家族、社会が与えるプレッシャー、1日の過ちが人生をどう変えてしまうのかという脆さを描いた感動的な作品だ。興味深いのは、例えばフランク・オーシャンからカニエ・ウェストアニマル・コレクティヴレディオヘッドという正に今のティーンエイジャーが聴きそうなセンスの良いサントラと、トレントらが手がけたスコアがほとんどキャラクターの1人というくらい作品の前面に出ていること。サントラは、主人公達の人格を象徴しているのに対して、ピアノからエレクトロによるより削ぎ落とされたアンビエントな彼らのスコアは、時に緊迫し、時にか弱く、時に暴力的で、時にエモーショナルで、時に癒しを奏でることで、主人公達の言葉では吐き出せない心情を浮き彫りにしてくれるのだ。しかも、今回驚いたのは、彼らがフランク・オーシャンなどのサウンドと自分達のスコアを絶妙なアレンジで繋げていること。正に“波”のように音楽が途切れることはなく、引いたり押し寄せたりするサウンドを聴いているだけでも物語が見えてくる。(中村明美)



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トレント・レズナー&アッティカス・ロス ウェーブズ - 『rockin'on』2020年2月号『rockin'on』2020年2月号
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