アメリカのロックダウンが解除されるまで毎週“Dylan Lockdown Series”と題してディラン・カバーを披露してきたクリッシー・ハインドだったが、プリテンダーズの新作、こんな良いアルバムになっているとは思ってなかった。本当にゴメン。さらにもう一つゴメンなのはプロデュースのスティーヴン・ストリート。この人の実力はよく知っているつもりだが、ベテラン・バンドをここまでリフレッシュした手腕に改めてびっくり。
心地よいオーソドックスなロック、常套的なサウンド・アプローチながらどれもとても清涼感があり、これを出すのは、ベテランになればなるほど難しい。どれもかつて作ったり、挑んだことだったりするからだ。しかしここでのプリテンダーズは確実に時代の風がバンドの中を吹き抜けているのを感じさせる。
その大きな原動力となっているのがスティーヴンであり、久しぶりに帰ってきたオリジナル・ドラマー、マーティン・チェンバースの存在だ。ザ・ブラック・キーズのザ・ダン・オーバックがプロデュースした前作『Alone』もとても良かったが、ダンも含め腕利きプレイヤーたちが参加したサウンドは、どこかで40年のキャリアを持つプリテンダーズならではのテイストと微妙にすれ違っていた気もする。そこらの匙加減が今作は絶妙で、あくまでもバンドとしての突進力とグルーヴを全面に押し出している(初期のアルバムに通じるジャケもその表れ)。
全曲、彼女とギターのジェイムズ・ウォルボーンが書いたもので、スタジオ風景を切り取ったような1曲目の冒頭が『Alone』と同じ仕掛けで、これは約8年ぶりのアルバムでシーン復帰に貢献してくれたダンへの礼代わりだろう。そこらのクリッシー姉御の男前っぷりも文句なくかっこいい。 (大鷹俊一)
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