今を照らす生の歌声

アラニス・モリセット『サッチ・プリティ・フォークス・イン・ザ・ロード』
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ALBUM
アラニス・モリセット サッチ・プリティ・フォークス・イン・ザ・ロード

今年はあの衝撃作『ジャグド・リトル・ピル』のリリースから25周年という節目。今になると、意外とサラッと聴けるなあなんて思うのだが、それはきっと、これを機に、このスタイルがスタンダードのひとつになったから。当時の私は、女性シンガー・ソングライターに対して、美しくポップスを歌う、あるいはキュートやセクシー、カリスマティックなど、浮世離れしたキャラクターというイメージがあったのだが、アラニスはそのどれにも当て嵌まっていなかった。とことん生々しくて、海の向こうのアーティストにもかかわらず近い存在に感じられたのだ。もちろんぶっ飛んだ歌い方だったし、当初からずば抜けた才能の持ち主だったけれど、その発露が素直に見えたからだと思う。

その『ジャグド・リトル・ピル』リリース25周年を記念した来日公演は、残念ながら中止となってしまったが、8年ぶりとなるニュー・アルバムは、ここに届いた。オープナーの“Smiling”は、90年代のUKロックを思わせるような重々しいトーンではあるものの、決して後ろ向きには聴こえない。むしろパワフルに、《Keep On Smiling》と歌い上げている。キャリアを重ね、母となり、強くなったのだろうか。しかし、その素直さは不変だと思う。

“Smiling”は壮大だが、収録されている全11曲には、シンプルなピアノや、オーガニックなギターをバックに、歌が際立っているものが多い。どん底のように暗く切ない旋律の中でも、彼女の歌によって、ポッと松明が灯るみたいに温かく感じられるところが、時代と彼女の対比を映し出しているようで印象的。感情や思想と一体化した歌声は、そのスタイルがスタンダードになっても、いくら時代が流れても、唯一無二の力を誇ることを知らしめる1枚だ。 (高橋美穂)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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アラニス・モリセット サッチ・プリティ・フォークス・イン・ザ・ロード - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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