必然的な奇跡と、その軌跡。この先にはどんな未来があるのか?

クイーン+アダム・ランバート『ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド[通常盤(DVD付)]』
発売中
ALBUM
クイーン+アダム・ランバート ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド[通常盤(DVD付)]

1月下旬、我々が目撃したのはある種の奇跡だったのかもしれない。

さまざまな規制がいくぶん緩和されつつある今日この頃ではあるが、ライブ・エンターテインメント全般の一時停止状態がこれほどまでに長く続いてきた現実を考えると、クイーンアダム・ランバートの日本公演が、新型コロナ禍が深刻化する直前に実施されていたことがいかに幸運だったかを感じずにはいられない。とはいえ本来はこの夏にも大規模な欧州ツアーが行なわれるはずだったわけで、“Q+ALロス”とでもいうべきものを味わっている音楽ファンは世界中に溢れている。そして本作は、そうした人たちの心を満たしてくれるはずのライブ作品である。

クイーン+アダム・ランバートにとって初の全世界対応型公式ライブ作品ということになる本作には、過去7年間に世界各地で収録されてきた素材のなかから厳選されたベスト・パフォーマンスが凝縮されている。日本のファンにとっては2014年の夏、『サマーソニック』のヘッドライナーを務めた際の3曲がセレクトされている点も喜ぶべきところだろう。まさしく真夏の夜の夢のようだったあのライブが、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の公開から4年以上も前の出来事だったという事実にも、改めて時の流れを感じさせられる。2016年当時、ブライアン・メイとロジャー・テイラーは同フェスでの体験を振り返りながら、日本の夏の暑さ以上に「フェスならではの若く多様なオーディエンスの前で演奏したこと」が新鮮で印象的だったと語っていたが、その後、このバンドの支持層がこんなにも拡がっていくことになるとは想定していなかったに違いない。

本作中、最も古いのがその『サマーソニック』での収録素材で、逆にいちばん新しいのが、先頃の日本公演直後に彼らが訪れたオーストラリアはシドニーでの復興支援チャリティ・イベント、『ファイア・ファイト・オーストラリア』への出演時に収録された全7トラックということになる。終盤にまとめて配置されたそれは、まさしく1985年の『ライヴ・エイド』出演時、すなわちあの映画におけるクライマックスとなったライブの再現を主題とするもの。35年前にロンドンで起きたマジックが映画とともに蘇り、パンデミック直前に刷新されていたという事実の巡り合わせにも、リアルかつ必然的なドラマ性を感じさせられる。

何よりも注目すべきは、このプロジェクトに関与し始めた当初から逸材ぶりを発揮していたアダム・ランバートが、時間経過のなかで、この特殊な場における先導役としての説得力と貫録を増し、存在感をいっそう色濃くしていることだろう。歌唱の見事さについては言うまでもないが、彼の歌声自体が神懸かったオーラを纏うようになっているのだ。

また、今回はCD単体だけではなく、DVD/ Blu-rayが伴った形態でも同時発売されているが、ダラス・カウボーイズのチアリーディング・チームを従えながら演奏されている“ファット・ボトムド・ガールズ”などはまさに音源以上に映像で楽しむべきものだろう。しかも映像版のほうには、CDには未収録のドラム・ソロとギター・ソロも無編集で収められている。ことにロジャーと彼の実息にあたるルーファス・タイガー・テイラー(ザ・ダークネスの一員として活躍中)によるドラム・バトルは必見だ。誤解を恐れずに言えば、たっぷりと尺のあるこれらのソロ・パートをCDの収録内容から外したことも賢明だったように思われる。もちろんそうした要素が彼らのライブにおける贅肉だとは思わないが、結果、それによってアルバム自体が小気味よさを失うことなく、畳み掛けるようなスピード感を伴った仕上がりになっている。

確かに“キラー・クイーン”や“輝ける7つの海”といった有力曲が選から漏れているのは残念というか少々意外でもあるが、そうした点からも本作が単純なヒット曲集として編まれたものではないことがうかがえるし、逆にフレディ・マーキュリーのソロ楽曲である“ラヴ・キルズ”といったレア度の高い曲が選出されている点にも注目したい。

そしてこの作品で心の隙間を埋めてもらった後には「またこのライブを目撃したい!」という欲求と、クイーン+アダム・ランバートとしてのオリジナル・アルバムが制作されたらどんなものになるのか、という興味が当然のように肥大することになる。なにしろ2021年以降の彼らには、その双方を叶えることができるはずなのだ。そんなふうに考えれば考えるほど、このクイーン+アダム・ランバートという場そのものが奇跡に等しい価値のあるものなのだと思い知らされる。この信じ難い現実に、改めての感謝を。 (増田勇一)



各試聴リンクはこちら

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。


クイーン+アダム・ランバート ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド[通常盤(DVD付)] - 『rockin'on』2020年11月号『rockin'on』2020年11月号
公式SNSアカウントをフォローする

洋楽 人気記事

最新ブログ

フォローする