すでに多くのものを獲得し、同期生たちの誰もがなし得なかった領域にまで達していたグループが、休むことなく、さらなる前進を高らかに告げたのが00年リリースのこの『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』だった。そんな歴史的アルバムの生誕20周年を祝う「20thアニヴァーサリー・エディション」が出た。リマスターされ、さらにスケール感を増した本編の1CDをベースにアナログ・レコード2枚組、ジャケ違いでライブ・ディスクを含む2CD版、アナログ盤11枚組セット(!)、デジタル配信などがあるが、注目はやはりレア音源やライブをたっぷり加えた5CDのスーパー・デラックス・ボックスだ。
まず強調しておくべきは最新リマスターの音の生々しさだ。ダニエル・ラノワ/ブライアン・イーノの鉄壁プロデュース・コンビによって丹念に録られた音の繊細さとダイナミズムがみごとにアップデートされた心地よさは、冒頭の“ビューティフル・デイ”を聴くだけでよくわかる。音の深度が増し、音際をよりシャープにさせメリハリがさらに付けられた印象で、ボノのボーカルの感情の完璧なコントロールはもちろんのこと、エッジの硬軟自在に飛び回るギターの心地よさ、そしてアダムのベース、ラリーのドラムスの堅実なプレイは、このアルバムのコンセプトをさらに鮮明にしていく。
ディスク2は「Bサイド/アウトテイク/オルタナティヴ」と題されているとおりのレア集で、“レヴィテイト”、“ラヴ・ユー・ライク・マッド”、“フラワー・チャイルド”の初CD化音源3曲がマニアには目玉か。“スタック・イン・ア・モーメント”のアコースティック・ヴァージョンあたりも嬉しい。
ディスク3、4は01年に行われた「エレヴェイション・ツアー」から01年6月のマサチューセッツ州ボストンのフリート・センターでのライブで『オール・ザット・ユー・キャント~』からは7曲演奏されるが、その他の代表曲たちもたっぷり楽しめ文句なし。そしてディスク5がリミックス集となっていて、バンドのアーカイブから今回発掘されたという“ニューヨーク”や“ウォーク・オン”など計4曲の未発表リミックスが入っている。またボックスには、お馴染みアントン・コービンの写真をフィーチャーしたハードカバー・ブックなども収められるのも見逃せない。
『置き去りにできないすべてのこと』と題して彼らが訴えたかったものの何が解決したとは言えない現状であるだけに、このアルバムの有用性を改めて問うには最高のアイテムとなっている。(大鷹俊一)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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