呪縛を軽やかに蹴り破るダンス・ソング

ビリー・アイリッシュ『ゼアフォー・アイ・アム(ゆえに我あり)』
発売中
SINGLE
ビリー・アイリッシュ ゼアフォー・アイ・アム(ゆえに我あり)

コロナ禍でも着実にシングルを発表し続けているビリー・アイリッシュ。最新の“Therefore I Am~”ではフランスの哲学者ルネ・デカルトの提唱した命題「我思う、ゆえに我あり」をタイトルに引用し奇をてらった感あり、アティチュードもあって、ビリーらしくてカッコいい。それでいてiPhoneで撮ったMVでは誰もいないショッピング・モールをひとりで駆け回り、ドーナッツをむさぼり食べていて、深いメッセージと暗さと軽さがまた絶妙なバランスで最高だ。

“my future”ではこれまでになく甘美でポジティブなトーンのバラードで未来をささやいた彼女だが、今回は一転遊び心のあるダンス・チューン。同じく奇妙でダークなダンス・ビートの“バッド・ガイ”で彼女はキャリアで最高のUSシングル・チャート1位を獲得したが、今回はすでに、それに次ぐ2位を獲得している。歌詞は“my future”に続き、自己アイデンティティを確立する内容になっていて、繰り返し歌われるのは《あなたは私の友達でもないのに/まるで自分こそ最高だと思っているみたいね/でも我思う、ゆえに我ありだから》だ。つまり、あなたに何を言われても関係ない。私は私だから、と言ってるのだ。ファンはすぐにこれが何を意味するのかを憶測していたが、多かったのは、これまでダボダボの服を着ることで有名だった彼女が10月くらいにぴったりのタンクトップにショート・パンツで歩く写真をパパラッチに撮られたこと。それを見てある男性が彼女の体を中傷するツイートをしたのだ。それが次々にニュースに取り上げられ、ファンからは猛攻撃された。ビリーはこの曲で《止めてよ、何言ってるの?》《私のこと知ってるようなフリして話さないで》と反発しているし、モールで好き勝手にドーナッツを食べる姿もそう考えると納得できる。この曲は、そんなボディ・シェイミングへの反撃であるとも取れる。

また、彼女はインタビューで「自分がある時ビリー・アイリッシュのパロディになってる気がした」とも言っていた。つまり人の考える「ビリー・アイリッシュ像」にいつの間にか閉じ込められていたので、そこから脱出しようとしたことについて歌った曲とも取れるのだ。デビュー作後に発表した“everything i wanted”では自殺まで考えたどん底から自分の揺るがない立ち位置を見出し、“my future”では自分を再確認し未来に希望を抱いた。そしてここでは自分の呪縛の殻を蹴り破っている。着実にビリーの成長物語が刻まれているわけだが、制作中の2枚目も「最高」とのことなので、2021年はこの物語の続きを楽しみに待ちたい!(中村明美)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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ビリー・アイリッシュ ゼアフォー・アイ・アム(ゆえに我あり) - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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