女優・モデルでもあるテイラー・モムセンをフロントに擁するロック・バンド、という説明ももはや不要だろう。ヘイルストームと双璧を成すかのような頼もしさを感じさせるこの4人組は従来作でも華々しい実績を重ねてきたが、前作から5年ぶりとなるこの4枚目は、まさしく決定打となるに違いない。
前作当時はサウンドガーデンの北米ツアーに同行し、そのさなかにクリス・コーネルが自ら命を絶つという悲劇が発生。そのダメージは彼らにも及んだ。さらには旧知のプロデューサーがバイク事故で他界。メンバーたちは沈鬱な精神状態に耐えきれず薬物依存の闇に陥ることになった。そして、今作に取り組むことが彼ら自身にとってのセラピーとなったのだという。
ちょっと映画的展開でもあるが、実はよくある話なのかもしれない。が、よくあるレベルではないのがこの作品の出来栄えだ。バンドの素性を知らずに初めて触れたならば、これまで彼らの作品を聴かずにきたことを悔やみたくなるはずだし、前述のようなサイド・ストーリーを知らずに触れたとしても、テイラーの歌声に人生経験の豊富さを感じとることになるのではないだろうか。しかも収録曲のひとつにはサウンドガーデンのキム・セイルとマット・キャメロンが、さらに別の楽曲ではオーディオスレイヴでクリス・コーネルと活動を共にしてきたトム・モレロがゲスト参加し、まさしく話題性以上の特別な付加価値を本作にもたらしている。
先人たちから具体的協力を得ながら、しかもそれ以上に大切な形なきものを受け継ぎながら完成に至らしめられた、まさに温故知新と自己探求の精神に満ちた傑作。2020年代なりのオルタナティブ・ロックの名盤として記憶されるべき宿命にある1枚だといえよう。(増田勇一)
各視聴リンクはこちら。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。