轟音抜きのソロ・ステージ

J・マスキス『フェド・アップ・フェイーリング・ストレンジ・ライヴ・アンド・イン・パーソン1993-1998』
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ALBUM
J・マスキス フェド・アップ・フェイーリング・ストレンジ・ライヴ・アンド・イン・パーソン1993-1998

CDで3枚組の『フェド・アップ・フェイーリング・ストレンジ・ライヴ・アンド・イン・パーソン1993-1998』には、J・マスキスの90年代のソロ・ライブが収録されている。このうち93年の音源は『ライヴ・アット・CBGB』、95年の音源は『マーティン・アンド・ミー』として発表されたものだが、98年にスウェーデンで録音した『ライヴ・イン・コペンハーゲン』は未発表音源である。

マスキスの歩みをふり返ると、93年と95年はダイナソーJr.での活動がメインだった時期であり、98年はそのバンドを解散した翌年にあたる。このため、アコギの弾き語りだったこれらのステージでも、ダイナソーJr.の曲を多く歌っている。このバンドは、グランジの先がけ的な存在でノイジーなギター・サウンドで知られていた。それに対し、轟音をとりはらったソロ・ライブでは、子どもがむずかるような節回しや裏声をまじえたマスキスのボーカルが、独特の哀感を醸しだしている。

かといって、センチメンタルなばかりではない。ギターがブルージーなフレーズから切れ味鋭いコード・ストロークへ移り、歌声も荒々しくなる場面がしばしば出てくる。彼はダイナソーJr.でギター、ボーカルだけでなく、作品によってはレコーディングでドラムを叩いていた。だからなのか、ギター演奏でも打楽器的な感覚が時おりみられる。2~3分台の曲が多いものの、短い時間で音の表情が変化するのが面白い。また、3つのステージを聴き比べると、時を追うごとに歌もギターも力強くなっていったのがわかる。

レーナード・スキナード、カーリー・サイモンなどカバーも披露しているが、注目はザ・スミス“心に茨を持つ少年”。モリッシーとは大違いの粗野な歌唱が、とても彼らしい。(遠藤利明)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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J・マスキス フェド・アップ・フェイーリング・ストレンジ・ライヴ・アンド・イン・パーソン1993-1998 - 『rockin'on』2021年4月号『rockin'on』2021年4月号
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