小沢健二(男性・53歳・子持ち)

小沢健二『泣いちゃう』
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小沢健二 泣いちゃう
ともにこの時代を生きる我が子に、友に、自分は何を語り得るのか?――その問いに対して、小沢健二は真っ正直に悩んでいるのだろう。悠久の歴史の中の一瞬を生きるひとつの命として、新種のウイルスに怯える人類の一部として、そして、責任と弱々しい本音に板挟みになるひとりの大人、あるいは親として。彼は実直に悩み、揚げ句、こう呟く。「泣いちゃう」。

3ヶ月連続リリースの最終曲。ですます調で綴られる歌詞に、かつてのような全能感や肯定感はない。滲むのは戸惑いと無力感とやけっぱちであり、この曲においては、熱狂を伝播するキャラバンも、宇宙の神秘も、家族が寝静まったあとの孤独な浴槽に、くたびれた体と一緒に沈んでいくようだ。推進力のあるビートは疲れた体と脳みそを、何も解決されていない明日という未知へと運んでいく。小沢健二の新領域といえるだろう。消費し消費された過去、不在が生んだ幻影、それらのベールは剥がれ、世界と生活を前に不安定に揺れる53歳の裸の男がここにいる。彼は待ち受ける受難を予期しながら、「それでもいけ」と、祈りと呪いが混ざった独り言を呟く。(天野史彬)

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