ディズニーきっての女ヴィランの前史を描き、現在大ヒット中の映画『クルエラ』。同作の肝は舞台が1970年代のロンドンに設定されていること。その意図がクルエラの反骨精神とパンク・ムーブメントを重ね合わせることだったのは明らかだ。
ファッション・デザイナーを目指してロンドンにやってきた少女エステラが悪と欲望に染まる自由を手にしてクルエラへと変貌する、それを赤・黒・白をキー・カラーとするファッションで表現したエレガントかつ過激な彼女の姿が、ヴィヴィアン・ウエストウッドへのオマージュであるのは言うまでもないだろう。
そんな時代設定に合わせて、サントラも当時のロンドンのヒップなカルチャー・シーンを彩っていた名曲の数々によって構成されている。ザ・クラッシュ(“ステイ・オア・ゴー”)や劇中で同性愛者のアーティを演じたジョン・マックレアによるストゥージズ“アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ”のカバー等のもろにパンクなナンバーに加え、スーパートランプ(”ブラッディ・ウェル・ライト”)やクイーン(“ストーン・コールド・クレイジー”)など、中心となるのはロック・チューンで、どの曲もハードなギターの中にきっちり妖艶さがあり、フェミニンなムードを湛える本作にぴったりの選曲だ。
パンクやロック以外にもニーナ・シモン(“フィーリング・グッド”)やアイク&ティナ・ターナーのツェッペリン“胸いっぱいの愛を”カバーなど、低音に凄みを効かせた女性ボーカル曲はまさにクルエラのテーマ曲だろう。
そして何と言っても最大の注目は本作唯一の書き下ろし曲であるフローレンス・アンド・ザ・マシーンの“コール・ミー・クルエラ”だ。劇中スコアを手がけたニコラス・ブリテルとのタッグでハードボイルドな悪の女王を演じるように歌う、ウェルチ様のまさに「はまり役」なのです。(粉川しの)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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