一聴して、セカオワの音楽と出会った頃を、それこそアルバム『EARTH』に震撼させられた頃のことを思い出した。メジャーデビューから10年、レーベル移籍後では初のアルバムだというのに、奇妙な話だ。あの頃とは、メンバーの見ている風景も、表現技術の深みもまるで違うはずなのに、するすると耳から心に滑り落ちてなんとも言えない感情の残り香をふわりと立ててゆく、あの頃のセカオワの歌の手応えを思い出させるのである。“umbrella”や“silent”はもちろんのこと、インストゥルメンタルのトラックも含めて全編が歌心に満ち溢れている。Fukaseが生き難さを思うさまを撒きちらすラップ“Like a scent”、Saoriが美しくも儚い物語を歌に込めた名曲“陽炎”、Nakajinがじっくりと染み渡らせるドリームポップ“正夢”と、洗練されたサウンドトリートメントによって歌声を際立たせた曲が並び、驚きのゲストボーカル＝Fukaseの妹ふたりを迎えた“family”は、“サザンカ”にも匹敵するほど心温まるナンバーになった。これから時間をかけて、何度でも聴き返しそうな予感がしている。（小池宏和）

『ROCKIN'ON JAPAN』9月号より