壮大なストーリーを敷いて構築されたコンセプトアルバム『EYES』とは打って変わり、この最新作は
WONKの音楽が生々しい息遣いをもって生活に溶け込んでゆくようなアルバムだ。穏やかさの中に新たな決意を迸らせるフォーキーソウルのリード曲“Migratory Bird”からして、巨大な困難に苛まれてきた人々に寄り添い、励ますような響き方をしている。セルフメンタルケアをテーマに据えたネオソウルの“Euphoria”も、非常に今日的な楽曲と言えるだろう。驚くべきは、WONK史上初めて日本語詞を大々的にフィーチャー(終盤には英語詞もある)した“Umbrella”だ。曲調に誘われるようにしてナチュラルに溢れ出す詩的なメッセージが、新たなスタンダードとして鳴り響いている。4人の高度な表現スキル、そしてレコーディング合宿による緊密なコンビネーションをもってこそ成立した『artless』=「ありのままの、虚飾のない」すごさを、味わってほしい。なお本作は、ドルビーアトモスの音響技術を前提に録音やミキシングが工夫された。イントロ部分に聴こえる足音や楽器音にも、深い臨場感がある。(小池宏和)
『ROCKIN'ON JAPAN』7月号より