縄跳びマドンナを追え
マドンナ『スティッキー・アンド・スウィート・ツアー・ライヴ・フロム・ブエノスアイレス』
2010年03月31日発売
DVD+ALBUM
何度聴いてもやっぱりそうだったと思うのは『ハード・キャンディー』がマドンナにとってはあまりにも画期的な復活作だったということだ。それはダンス・ミュージックである限り下世話でなければ伝わるものも伝わらないことをマドンナが健気にも思い出してくれたからだ。もともとはこうした処世術を本能的にシステム化していたマドンナもさすがに藪に迷ったのか、「ダンスフロアーで告白」などと宣うまでに至って、ついにマドンナも本格的に人の気持ちなどまったくわかってない文化人になってしまったんだなあと残念に思っていただけに「ハードなキャンディあげるからわたしのお話聞いて」というアプローチを取り戻せたことはなによりも喜ばしかった。本作はそんな原点を取り戻したマドンナの現ツアーの映像作品。のっけの“キャンディー・ショップ”からマドンナが椅子の肘掛に足を乗せて大股開きで登場して、その表情がものすごくかわいい! 正直言って前回の来日公演は居心地の悪さを覚えただけだったが、本作ではがらっと変わって、マドンナも自意識に対する自意識を捨てたとでもいうような感じで、昔のマドンナと同じだと思えて観ていて楽しくなってくるのだ。もともと踊りのセンスがそんなにいい人ではないけれども、それでもあえていろいろやってしまうところがよかったわけで、そうした自分の芸の原点のみを徹底的にショーアップした今作は素晴らしい出来になっている。“イントゥ・ザ・グルーヴ”でビジョンに映し出されたキース・へリングの作品のアニメーションの前でマドンナに縄跳びをされた日には不覚にも萌えてしまった。(高見展)
2010.04.01 22:00