聖母のような少女のような

アデル『21』
2011年01月19日発売
ALBUM
アデル 21
ファースト・アルバム『19』はここ日本でも新人としては目覚ましい売上を記録したという。グラミーの受賞なども大きかったとは思うのだけど、どこかのアイドルのような露出をすることもなく、二度の来日も中止になってしまったにもかかわらず、それだけの支持を得たのは、やはり彼女の声と曲の力の賜物だろう。十代とは思えないスモーキーな奥深さと、十代にしか発することのできない瑞々しさが不思議と、その声には同居していた。だからこそ、彼女の声は力強くもあり、同時にそこには現代的な脆さも存在していたのだ。そんな声で歌われた“チェイシング・ペイヴメンツ”やディランの“メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ”は、ポップ・ミュージックとして理想的なフォルムを持っていた。本作はそんな彼女が二十代になって初めてのアルバムとなる。

最近はプロデュースを務めると論争作になることが多い気がするリック・ルービンが手掛けたということで、戦々恐々としていたのだが、豪快な四分打ちキックが轟くファースト・シングル“ローリング・イン・ザ・ディープ”を除けば、大きな変化はない。おそらくリック・ルービンはもう一度“チェイシング・ペイヴメンツ”を夢見たのではないかと勝手に思っているのだけど、彼女自身の人間的成長が色濃く反映された結果、音楽的進化はビタースウィートなピアノ・バラードで顕著になっている。なかでも“ターニング・テーブルズ”は本作の中でも飛び抜けた楽曲。キュアーの“ラヴソング”のカバーもいい。彼女は本作の曲を僅か1ヶ月ほどで書いたという。やはりこの人は恐ろしい。(古川琢也)
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