真摯な音楽は時間を止める

鬼束ちひろ『蛍』
2008年08月06日発売
鬼束ちひろ 蛍 - 蛍
寂寞感を逆撫でるストリングス&ピアノのイントロを経て≪時間よ止まれ/この手に止まれ≫と瞬時に風景をリセットした後の虚空に、情念の哀しき残り火のイメージを、壊れないように、消えないように、そっと丁寧に配置していく……サウンド・テクスチャーや楽曲展開などのディテール面では前のシングル曲“僕等 バラ色の日々”から地続きと言ってもいい“蛍”。だが、そんな繊細な感情を歌ったはずのこの曲では、≪蛍 この星を舞い上がれ 遠く近く照らして踊れ≫という力強い言葉、希望も絶望も振り払ったような一切無駄のないメロディによって、「離れてしまった大切な人との一瞬の思い出」という哀しいシチュエーションまでもが輝きを帯びてくる。傷口を塞いで醜いカサブタを作るよりは、傷口そのものと向き合うことで明日の望みを獲得する――そんな鬼束ちひろの表現がよりソリッドに突き詰められた楽曲であり、「アルバム『LAS VEGAS』以降」を鮮烈に印象づける1曲。カップリングの、アコギ中心の音の中で泣き笑いの愛の日々を歌う“HIDE AND SCREAM”も、独特の凄みを含んでいる。(高橋智樹)
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