幻へと続く旅路

鴉『感傷形成気分はいかが』
2011年08月17日発売
ALBUM
鴉 感傷形成気分はいかが
鴉の音楽には、焦燥感と安心感が同居している。二律背反のようにも思えるその二つが両立しているのは、彼らの描き出す幻が、目の前の現実を前提としているからだ。1stアルバム『未知標』リリース後、ドラマーの交代を経て届けられたミニアルバム。“黒髪ストレンジャー”路線をさらに推し進めたようなジャジーな浮遊感を放つ“幻想蝶”で幕を開け、これまでになくアウトドアな疾走感を持つ“列車”で終わる本作の構成は、まるで幻から現実へと駆け抜けてゆくようでもあるが、《無くしてた線路は落書きで続いてる》(“列車”)と歌われるように、その先にはまた確実に幻が待ち受けている。鴉の音楽には「夢幻」という言葉がよく似合うが、夢も幻も、ただ何もない場所にふわっと漂っているものではなく、今見えている現実の先にしかあり得ない。そこには地に足の着いた安心感と、その先にチラつく幻を追いかけたくなる焦燥感がある。追いかけては立ち止まる、そんな衝動に忠実な呼吸が激しいリズムチェンジを生み、現実と幻に身を引き裂かれる想いが絶唱となる。目を開けたまま見る白昼夢のような音楽。(井上智公)
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